余命わずかな天才探偵が、その死を目前にして無実の人間を「完璧な殺人犯」に仕立て上げる探偵が正義の側ではなく冤罪を紡ぐ側に立つという逆転の構図が、この作品の挑戦的な核心だ。
各話タイトルがチェスの定石(クイーン・ギャンビット、ツークツワンク、チェックメイト)で統一されている構成美が秀逸で、探偵・犯人・刑事という三者が盤上の駒として動かされていく様子が、比喩ではなく実際の物語構造として機能している。助手が自分の記録していたものが「解決の記録」ではなく「無実を葬る聖典」だったと気づく瞬間の冷たい戦慄が、本作の最大の読みどころだろう。
全7話・1万2千字程度というコンパクトな尺の中に、論理と非情さが凝縮されている。美しくも残酷な、論理が真実を塗り替えていく過程を味わいたい人にこそ薦めたいミステリーだ。