正面から右に九十度の章 覚めてみる夢うつつ その一

 立方体のたくさん積まれた、どこもかしこも七色な街であった。

 千ぷウはむかし積み木で作った街の思い出した。

 いわゆるそれの現実版である。

 地面はまっ白く、空も白い。

 雲だって立方体で浮かび、さまざまな色をしている。

 色とりどりかつ、すっきりした世界だった。

「どうも淡白な作りです」

 白地のうえで博士はとても不思議そうだった。

「ワン白だね」

「人っていないんでしょうか?」

「ヒトデなんていないでしょう」

 すると遠目からなにやらたくさん、鼠ほどのヒトデが走ってくる。

 五つある角のどれがほんとうの足だか手だか、当人すらわからないのか車輪よう転げてくる。

 星形のどれもあちこち散って、立方体のなかへ怯えて入る。

 千ぷウこの転がって、散ってくるひとつ、ひょいと掴まえた。

 ひょいっとやられ五つある手だか足だかジタバタ。

「なんだてめぇいら。足も手も区別ついて気持ちわりぃ」

「私が掴んでるのって、右足?」

「いや髪の毛だよぉ、痛い、痛い、遺体になる! 離しくされい!」

「じゃあ引っ張ったら千切れて禿げるんだ」

「禿げたくないやい! そうだ、ほんとうは左足だった!」

「歩けなくなるねぇ」

「そしたら違うね、右手だった。それも小指だよ!」

「指きりげんまん、嘘ついたら嘘ついた」

「というか、てめぇら旋ヶ夢つむじがゆめにそっくり! 奴の仲間だろ!」

「おもろそうなので、そうだよ」

 ヒトデ、ぎゃあと悲鳴して、いっそうジタバタ。

「ヒトデなんだから、ヒッとでなきゃ」

「まったく俺たちの種族へと災いをやって、よくそうニヘラしてらぁ」

 すると地震がちょっとした。

 積んだ立方体の幾つかがぎくしゃくして、横倒し。

 色とりどり散らかって、なか隠れたヒトデすら散らかって、白の地面の星空。

 また地震、また地震。

 どうも凡そ等間隔で、震源が近づく気配。

「なにやら足音でしょうか」

 博士ちょっぴり怖く退く。

 掴まれていたヒトデは、あばれたのがようやく功奏し逃れてどこかへ。

 ああ、掴んでたとこ左手の薬指か、千ぷウはそう合点した。

 はて、ヒトデら逃げてきたほうより、震源がようやっと姿をあらわす。

 震源は寝転んでいる人間な少女であった。

 イルカの形をした黒髪。

 青基調で水玉なドレス。

 そんな彼女の寝返り。

 腕が振り下ろされ地を打つ。

 打ちつけられた白い地が砕け、さっきの地震がひろがった。

 立方体はあざやかにいくらでも倒れる。

 ヒトデたち星なってそこらへん散らかる。

 こんな風に厄災をしながら転げてくる少女。

 足元へ来たこの少女の腹へ、千ぷウは足裏を添えて止めた。

 それから小柄なこの少女をサッカーボールに見立て、リフティングだった。

 蹴って、頭で突き、また蹴る。

 こう扱われても少女は起きることがない。

 寝息さし、鼻を鳴らすだけ、されるがまま。

 博士はついに腕を組んで首を傾ぐ。

「ヒトデはこれを災いと思っていたようで」

「サッカーボールみたいで楽しい」

「そろそろ蹴らしてくださいよ」

「よし、パス」

 千ぷウは飾車めがけ蹴ってしまう。

 するとボールだった少女はいきなり樅木頭をふんづけた。

 この勢いから、千ぷウのほうへ跳ねっ返る。

 それでその笑う顔面へ蹴りを入れようとする。

 千ぷウは頭をさげて避ける。

 避けられたが直進し、少女の蹴り込みは地を突いてかつてない地震。

 その突進のために、眠る少女は肩から下が地面に埋もれた。

 そのさまを、怯えても様子を見していたらしい、ヒトデたちは立方体から飛び出してくる。

 で、千ぷウと、頭を痛く抱える博士あたり囲って拝むみたい。

 なんなら諸手か両足だろうものをあげて、万歳。

 ヒトデたちの喜びそれぞれ。

「おお、旋ヶ夢を封じてくださった」

「あとは切手を貼ってやるだけだぞ」

「宛名も書かなくっては」

「拝啓、もうあれから家のこかされることもないです」

「ありがとう、敬具」

 星形はめいめい感謝して、深く、頭なんだろう箇所を千ぷウと博士へ下げた。

 千ぷウはなんとも上機嫌なって、

「なら手紙へお金入れといて」

「いかほどで?」

「タコのほうがいい、足多いし」

「ではタコ足一本で」

「人だけにヒトデ足五本でもいい」

 ヒトデはヒッと叫ぶ。

 囲い慌てふためき逃げ去る。

「やはり新たな旋ヶ夢だったのだ逃げよう。散れ散れ」

 そうしてふたりのほかに残ったのは、散らかった街と、地面に埋まった少女ひとり。

 したらば眠っていた少女の瞳がまず薄く開いてから、パッと青に咲いた。

 浅い息をしていたところから大あくび。

 埋まっていた両手を強引に天へ突き出す。

 ふわぁああああああああああああああ。

 擦ったって、まだ眠い不機嫌な眼だった。

「おはようございます!」

 千ぷウは元気であいさつ。

 寝ぼけ声で、少女はなんとか返事。

「おはにょうごぜんます。いま何時かしらん」

「朝五時だよ」

「もう一睡できるじゃねぇ」

「朝十時だよ」

「あと五分」

「朝十時五分だよ」

「遅刻だ……いや、どうせ遅刻なら休もう。おやすみ」

「夜九時だよ」

「おやすみなさい」

 またうとうと微睡んで、沈んでいく。

 そこで千ぷウは大声で、

「おはようございます! 朝九時だよ!」

「おあんようごんざんまい。うまい時間で起きてしまったもんね」

 寝こけそうなとこから、よっこらせで埋もれた体を地上へ出した。

「機嫌の悪いわ。何か平手打ちして、平手打ち仕返されないとすっきりしないの」

「じゃあ、この博士やんなよ」

 千ぷウは笑って、博士をつかまえ、さしだす。

 飾車はいやで、ヒトデらしくもがく。

「人でなし!」

「うん、ヒトデなし」

 千ぷウのシャレ。

 博士は少女から一発喰らう。

 そばにあった立方体まで大きく吹き飛んで右半身がめりこむ。

 すっきりしかけらしい少女は、

「よしじゃあ、誰ぞあたしへ平手打ちしてよ」

「よし博士の仇をかねて、わかったよ」

 よくもと面白がった転生体による一撃。

 博士へ同じく少女も立方体なか全身めっきり呑まれた。

 呑まれたも、立方体を砕き返し、少女、旋ヶ夢がめざめた。

 はっきりした悪童の瞳、なにもかもへ挑もう鋭さがある。

「おはようさん!」

「おはようさんって、だれ?」

「よくもしばいてくれたわ。ぱっつん髪」

「ところでおはようさんって、だれ?」

「だれかしらん」

 博士はどうにかめり込んだ所から脱した。

 そこかしこから現れるヒトデたちから心配げに包囲される。

「あんた大丈夫か。どこも欠けてないか?」

「まあ、超転生体なので」

「どうやら面倒なのが起きてしまった。こうなったら俺らの眠らされるので、はやく寝よう。布団、枕の準備さ」

「あれってなんですか?」

 疑いを指さしたさきで少女が千ぷウを睨む。

 千ぷウたら意に返さず笑っている。

「あれは台風だよ。地震だよ。雷だよ。おやじだよ」

「あなたたちのお父さんだったんですか?」

「まぁ、俺らの親父から知っているもんでさ。いわゆる災害なのだよ。そのせいでろくな文明発展の望めない。しかしあれが起きているのは、何百年ぶりさ。寝ていて災害だ。起きればもうこの世おわりよ」

 そこでどうやら備えておいたらしい、布団、枕を幾人かのヒトデらがせっせ運んでくる。

 墓場のように並べて敷いてしまえば、布団挟まり寝むろうと、

「ともかく俺らはもう二度と起きないから、あっちの起きたらこっちの眠ろう。せめていい夢であっさり絶えたい」

 おやすみ。

 としてから数秒で、ヒトデらのうち数名めざめて、

「どうしよう眠れない」

「枕が違うから」

「おさきまっくら」

「目の覚めちゃうなぁ」

「こんなひどいめだから」

「イルカを数えよ」

「イルカなんてどこにいるか? あぁ、あの旋ヶ夢おもいだしてなお眠られん」

 こう手足もままならず混乱し、ほかぐっすり行けそうなのまで覚醒、大慌て。

 さて、眠れない喧噪おかまいなし、旋ヶ夢はただ千ぷウを見る。

「あたしは災害姫、キャサリンヒス。よくもひっぱたいてくれたわ。ひっぱたいてやる」

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