静かな会話の中に、妙な緊張感と甘さがじわじわ立ち上がってくる作品でした。
派手な事件で引っ張るというより、人物同士の距離が近づきそうで近づききらない、その曖昧な時間の描き方がとても印象に残ります。
何気ないやり取りのはずなのに、言葉の選び方や間の取り方から、相手をどう見ているのか、どこまで踏み込んでいいのか、迷っている感じが伝わってきました。
語り手の立場や理性があるからこそ、感情だけでは動けない。
でも、だからといって心が動いていないわけではない。
そのもどかしさが、この作品の読み味になっていると思います。
また、会話のテンポが自然で、ちょっと笑える場面があるのも良かったです。
緊張感だけで押し切らず、ふっと力が抜ける瞬間があるので、読んでいて息苦しくなりません。
それでいて、最後には「この関係はどういう名前になるのだろう」と考えたくなる余韻が残ります。
恋愛の始まりをはっきり描くのではなく、まだ名前のついていない感情を丁寧に置いていく作品でした。
言えなかった言葉、近すぎる距離、でも壊したくない関係。
そういう空気が好きな人には、とても刺さると思います。
大きな展開よりも、会話の温度や人と人の間に流れる微妙な気配を味わいたい人におすすめしたい作品です。
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