第二十九章 分断

白脚組本塔。


下層管理区画。



警報灯が赤く点滅していた。


金属質な警告音。


無機質な廊下。


突入寸前、ミアはついて来ていた。


ナギが低く笑う。



「うわぁ……

歓迎されてるっすねぇ」



「静かにしな」


エマが拳銃を構えたまま言う。



その隣で。


ミアがnoemaを睨んでいた。



「いいから帰れ」


「だから、

私も行くって言ってるでしょ」



「駄目だ」


noemaは即答した。



「なんでよ」



「死ぬ」



ミアが眉を吊り上げる。



「だったら、

あんた達だって――」



「俺達は、

死ぬ前提で来てる」



空気が止まる。



ミアが言葉を失う。



エマが煙草を咥え直した。



「noemaの言う通りだ」


「これは遊びじゃない」



「でも――」



「ミア」


エマの声が低くなる。



「今のあんたじゃ、

戦場じゃ生き残れない」



ミアは拳を握る。


唇を噛む。



分かっていた。


自分は、

noema達みたいに戦えない。



noemaが背を向ける。



「お前は残れ」



ミアが何か言おうとして。


止まる。



noemaは振り返らない。



「……分かってるわよ」


無理矢理笑って、

ミアはそう言った。



一人になる。



静かな通路。


警報灯の赤だけが揺れていた。



「……ほんと」



ミアは頭を掻く。



「馬鹿ばっか」



帰ろうとする。


その時。



遠くで聞こえてしまった。


白脚組の構成員達の無線でのやり取り。



「侵入者は中央経路へ誘導だ」


「待ち伏せは完了してる」



ミアの足が止まる。



沈黙。



「あぁ……もう!」



ミアは走り出した。



白脚組本塔。


銃声。


火花。



通路奥から白脚組の兵士達が現れる。



ナギが地面を蹴る。


低い姿勢。


一直線。



敵が発砲。


だが。


当たらない。



「はっや……!」


兵士の声。



ナギは壁を蹴る。


軌道を変える。


そのまま相手の懐へ潜り込む。



銀色の刃。


喉が裂ける。


血飛沫。



エマが後方から射撃する。


正確。


無駄が無い。


敵の射線だけを潰す。



「右」


短い声。



ナギが反射的に身を沈める。


頭上を弾丸が抜けた。



「助かるっす姐さん!」



「前見て走んな」



エマは煙草を咥えたまま、

次の敵を撃ち抜く。



さらに背後。


伏兵。



エマは振り返らない。


拳銃を撃ちながら、

逆手でナイフを投げる。



鈍い音。


背後の男が崩れ落ちた。



ナギが目を丸くする。



「うわ、

姐さん怖……」



「死にたくなきゃ喋るな」



その瞬間。


轟音。



通路が爆ぜた。


熱風。


崩落。



隔壁が降りる。


金属音。



noema。


エマ。


ナギ。


三人が分断された。



「旦那!?」


ナギが叫ぶ。



「noema!」


エマも振り返る。



だが。


既に隔壁は閉じていた。



noemaは一瞬だけ目を閉じる。


呼吸。



「あの二人なら死なねぇ」



赤い警報灯。


暗い通路。



noemaは拳銃を仕舞った。


代わりに、

小さなガラス瓶を取り出す。


透明な液体。



「……面倒だな」



正面戦闘はしない。


それがnoemaだった。



換気口。


配管。


水路。



noemaは迷いなく、

施設内部へ毒を流し込む。



数分後。


通路奥。



「がっ……!?」



兵士の一人が喉を押さえる。


呼吸出来ない。



次々と崩れる白脚組の兵士達。



混乱。


怒号。



「毒だ!」



「換気を止めろ!!」



その騒ぎの中。


noemaは静かに移動する。



暗闇。


死角。


監視の隙間。



敵が角を曲がる。


そこには誰もいない。



次の瞬間。


首筋へ細い針が刺さる。



男は声も出せず崩れ落ちた。



noemaは止まらない。



だが。


敵の数が多い。



監視網。


封鎖。


増援。



徐々に包囲が狭まる。



noemaは舌打ちし、

近くの保管室へ滑り込んだ。



暗い部屋。


廃棄サーバー。


古い機材。



壁へ背を預ける。



その時。


部屋の奥で物音。



noemaが即座にナイフを向ける。



影が揺れる。


息を切らした人影。



「noemaストップ!ストップ!」


女の声。



noemaの目が見開かれた。



「……ミア?」



走馬ミアは、

乱れた呼吸のまま壁へ手を付く。


髪も服も乱れていた。


息を整えて話し出す。



「はぁ……

っ、あんた達」


「待ち伏せされてたわよ……」



noemaが眉を顰める。



「なんで来た」



ミアが睨み返す。



「白脚組の連中が、

侵入経路で待つって話してた」


「だから……」



呼吸が乱れる。



「放っとける訳、

ないでしょ……」



noemaは小さく舌打ちした。



「馬鹿かお前」



「うるさいわね……」


ミアは息を整えながら笑う。



「助けに来たんだから、

少しは感謝しなさいよ」



その時。


外の通路で足音が響いた。



白脚組の兵士達。



「この区画だ!」



「侵入者を追い込め!」



noemaはミアを見る。



ミアも、

少しだけ顔を強張らせた。



noemaが静かに毒針を構える。



「……今からでも帰れ」



ミアは首を振った。



「嫌よ」



短い沈黙。



そして。


noemaは小さく息を吐く。



「……後悔するなよ」



保管室の外で、

足音が近付いて来ていた。

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