かつて地球の七割は海だった。
けれど、この物語の世界では――ほぼ十割が海だ。
水没した建物の間を小舟が行き交い、ドローンが荷物を運び、人々は残されたものを拾い、直しながら暮らしている。
そんな世界で生きるのが、黄色いレインコートをまとった少女・哀。
彼女が目指しているのは「直し屋リペア」。
壊れたものを修理しながら技術を学ぶ彼女には、どうしても直したいものがひとつある。
自宅に残された、古いテレビだ。
映像すらまともに映らないそのテレビから、ときおり聞こえてくる途切れ途切れの声。
そして、その中に聞こえる「あい」という言葉。
もしかしたら、それは両親へと繋がる手がかりなのではないか。
まず惹かれたのは、この水没世界の生活感でした。
船での移動、拾い屋と直し屋という仕事、太陽光発電、限られた通信手段。
世界は大きく変わってしまっているのに、人々はそこでちゃんと暮らしている。
だからこそ、哀の小さな願いも、とても身近なものとして胸に届きます。
そして読み進めるほどに、古いテレビから聞こえる声が気になって仕方がなくなる。
あの声は、どこから届いているのか。
なぜ、哀の名前が聞こえるのか。
一話完結だからこそ、ここから先は何も知らないまま読んでほしい作品です。
静かな水面の下に、大きな問いを忍ばせたSF短編。
あなたもぜひ、黄色いレインコートの少女・哀と一緒に、あの声の先を確かめてみませんか。
そして読み終えたあと、もう一度――最初の一文へ戻ってみてください。