第56話 蛟竜との戦い2

 鬼の力でも、装甲服を着た蛟竜(みずち)相手では分が悪い。

 だが奴は胸から血を流しながら戦っている。

 そして――俺はひとりじゃない。


 俺が大きく飛び退くと、入れ替わるように二体の餓鬼変異兵(グレイマン)が本郷へ突進した。


「この程度でッ!」


 本郷が手をかざすと魔法陣が展開し、水の極太ビームが放たれた。

 三メートル弱の巨体が激流に押し流され、棚に激突する。

 金属フレームがひしゃげ、段ボールが押し出されていく。


「どこから入手したか知らんが、未亡の花嫁(ウィドウブライド)の変異魔族は歪だ。鬼をベースにしているものが多い」

「餓鬼変異兵(グレイマン)、同時に行くぞ。手数で攻める」


 段ボールの山から這い出た二体が俺の横に並ぶ。


「奴の能力が妙薬研究所(ミョウヤクラボラトリー)というくらいだから実験してたんじゃないか? 自分の細胞で。ふっ、おぞましい女だな」


 ――何も知らないくせに。


 たとえ実験していたとしても、それは護るためだ。

 自分を、俺を、未来を。

 CRATから護るためだ。


 怒りが溢れ、鬼の力が身体から噴き上がる。


「黙れ……っ!」


 俺は吠え、一気に距離を詰めた。

 鬼切と高周波ブレードが激しく打ち合う。

 本郷は俺の刃を完全に受け止めるが、その隙に餓鬼変異兵(グレイマン)が左右から割って入る。


 鋭い爪が振るわれるが、本郷は身体を逸らして避け、逆側の爪も飛び退いてかわした。

 逃がさない。

 俺は食らいつくように距離を詰め、人外の速さで鬼切を振り続ける。


「美夜子を化け物みたいに言って! あんなに心の優しい女性は他にいない! いつも俺のことを想ってくれた最高の女性だ!」

「美夜子? あぁ、未亡の花嫁(ウィドウブライド)のことか。鳴宮三佐から聞いてるぞ」


 本郷は一歩下がり、得意げに語る。


「人間に紛れて学園に通っていたらしいな。それで教師に恋をして巻き込んで死なせた。迷惑な話だ。魔族が人間にフリをして市民を巻き込んだのだから」

「死なせたのはお前らだろうが……!」


 前世の恨みを乗せて鬼切を振るう。

 刃がぶつかり火花が散る。

 直後、餓鬼変異兵(グレイマン)の爪が本郷を襲う。

 三方からの攻撃に隙はない。

 本郷はブレードで受けるだけで、水の能力を使う余裕がない。


「美夜子がどんな気持ちでいたか知らないくせに! お前たちが追い詰めるから、美夜子は……!」

「知らんな。ターゲットの事情など!」

「貴様ァァァ!」


 怒りを乗せて鬼切を振るが、本郷は受け止める。


「グギャアアアアアアアアアアアア!」

「邪魔だ!」


 本郷は片手を向け、水の極太ビームで餓鬼変異兵(グレイマン)を押し流す。

 灰色の巨体が棚を押し退けながら吹っ飛ぶ。

 だがその隙にもう一体が爪を振り、本郷の装甲服のシールドが剥がれた。


(ここで畳みかける!)


 鬼切を振ろうとした瞬間――


「――ぐっ」


 腹を蹴られ、数メートル吹き飛ぶ。

 装甲服のパワーが乗った蹴りだが、鬼の身体は丈夫だ。

 受け身を取り睨むと、餓鬼変異兵(グレイマン)の爪が本郷の肩を裂いていた。


(一瞬、俺を蹴り飛ばすために捨て身で……!?)


 続けて二体目も水流に押し流される。


「未亡の花嫁(ウィドウブライド)について聞きたいことがある。だからなるべく死ぬなよ」

「その傷でよく言えるな。追い詰められてるのはお前の方だろ」


 本郷は胸から血を流し、肩の肉も裂けている。

 勝利は近い――そう思った瞬間、本郷が目を細めた。


「まだわからないのか? わたしの勝ちだ。周りをよく見てみろ」

「あ……」


 気づく。

 俺の周囲が広場になっている。


(水で押し流して広場を作った……大技を放つ気か)


 本郷の足元に水の渦が噴き出し、空中で形を成す。

 大きな頭部、細長い身体――ヘビのようにうねる水の龍。

 息を飲むほど恐ろしい。


「餓鬼変異兵(グレイマン)!」


 二体が猛進するが、水龍が頭上から襲い、丸呑みにした。

 細長い手足をばたつかせ、空気を吐き出しながら苦しむ姿が水の中で見える。


(こいつらはもう駄目だ。無力化された)


 俺が同時に使役できるのは二体まで。

 他の変異魔族も水龍には相性が悪い。


「終わりだ! 飲み込め、水龍(すいりゅう)!」


 大口を開け、俺を丸呑みしようと迫る水龍。

 俺は跳躍し、旋回して噛みついてくる攻撃を空中移動(スカイムーブ)でかわす。


(次回に続く)

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