汝、香料士なれど未だ香料士に在らず。
知人の小説なので敢えて、結構批評らしい重めのレビューを書くことにする。
まず大前提として『本作は、雰囲気系の作品である』ことを書こうと思う。これを知っているだけでかなり楽しみ方が分かると思うからだ。
本作はかなりゆっくりと進む作品で、レスティナが帰郷し、知人と再会し、アトリエを構え、初めての商品を作る。そうやって生活や仕事の手触りを一つずつ積み重ねてから、ようやく物語の中心となる問題へ入る。この展開の遅さは「WEB小説としては」割と明確な弱点であると共に「作品単位としては」物語の雰囲気を形作る長所でもある。
町での暮らしや人物同士の距離感、香料士という仕事には、積み重ねがあり、それが他人の人生へ踏み込むことの重さへの説得力を押している。
これは「世界観の雰囲気を楽しめる読者には味になる」が、そうでない読者にとっては、単純に「話がなかなか進まない」とも感じられる構造である。
主人公の「目標」自体は早く提示されるが、読者が「物語の流れを予想」出来るほどのものではない。つまり「どう期待して読めばいいか」がやや分かりにくい。
物語を牽引する「中心的な問題」が見えるまでの話数が長い。日常会話や寄り道も多く、一話ごとの「強い引き」や「早い展開」を求める読者にはかなり厳しい。
その意味では、明確に読む人を選ぶ作品だとも言える。
だから私は大前提として『本作は、雰囲気系の作品である』ことを書いたわけだ。
本作の良さは、主人公であるレスティナの思想を無条件に「正しいもの」として扱わないところにあると思う。気軽に成功するのではなく、失敗して壁にぶつかる。職業につくことがゴールなんじゃなくて、職業についてからがスタートという話であるところだ。
一人で解決できる主人公として周りを助けて急成長するのではなく、周囲を頼り、知識を借り、自分にできる範囲を少しずつ広げていく。ただし、その成長も劇的ではない。
要するに、これは完成された職人が鮮やかに人を救う物語ではない。ということ。
主人公のレスティナも、最初から魅力的な職人として完成しているわけではない。レスティナは、目の前で苦しんでいる相手を見捨てたくない。少しでも多くの人が助かってほしいと願っている。それは優しさとも呼べるが、相手のためだけにある感情ではなくて、自分が見過ごしたくないから手を伸ばすという、甘さや我が儘も含んでいる。
その願いはしばしば彼女の能力を越えている。
そして技術があることと、結果に責任を持てることも同じではない。
そんな感じの物語だ。
文章全体が静かな調子で統一されているため、作品の雰囲気は保たれている反面、重要な場面まで同じ温度で進み、山場の強さが弱く感じられる部分もある。
もっと場面を削り、中心となる事件を早く提示すれば、投稿サイト上では読みやすくなるはずだが、それを徹底すると、この作品の風味まで薄れ、今ある良さを潰し、下手をすると別作品になりうるという、そんな二律背反を引き起こしている。
続きを書くならば、まあ同じように雰囲気を形作りながら続けて欲しいとは思っている。