終幕?

目を覚ましたとき、視界に飛び込んできたのは、夕日に染まる見慣れた通学路だった。

え……? おかしいな。俺、さっき確かに光ちゃん(ひかり)に包丁で刺されて、それから……。

「どうしたの? 諒くん(しょうりょう)、どこか体調でも悪いの?」

声のする方へ視線を向けると、光ちゃんが心底心配そうな顔で俺を覗き込んでいた。

「あの……光ちゃん。今って、何曜日だっけ?」

無意識のうちに、彼女のことを『光ちゃん』と名前で呼んでいた。

その言葉を聞いた瞬間、光ちゃんの顔にパッと大輪の花が咲いたような喜びが広がり、それから少し呆れたようにクスクスと笑った。

「ふふっ、やっと名前で呼んでくれた。すっごく嬉しいな。……今日は月曜日だよ? 急にどうしたの?」

月曜日!?

……ということは、ここは俺が光ちゃんに「関係を断ち切ろう」と切り出した、まさに『あの日』なのか!?

やった……! やったぞ! まだすべてが間に合う! 神様、俺の祈りを聞き届けてくれたんですね! ありがとうございます! 今度こそ、今度こそ俺は、絶対に幸せな結末(ハッピーエンド)を掴み取ってみせる!

俺が一人で呆然としているのを見て、光ちゃんが少し不安そうに口を開いた。

「あのね、諒くんが私のことを名前で呼んでくれたってことは……それって、いいの? 私たち、もう一度、幼馴染からやり直せるのかな?」

そうだ。俺、宮岭諒(みやみね りょう)の運命の分岐点は、まさに今この瞬間だ。今度の俺は、絶対に選択を間違えない。

「うん! 光ちゃんを遠ざけようとした俺が間違っていたんだ。もう一度、最初からやり直そう!」

「本当に……? 約束してくれる? 私を騙してないよね……? もし諒くんが嘘を吐いてたら、私、何をするか……」

あぁ、光ちゃんはやっぱり、こんなにも傷つきやすくて不安な子だったんだ。一周目で彼女をあんなに追い詰めてしまったのは、全部俺の不徳の致すところだ。

「ああ、約束だ。俺、昔『ずっと光ちゃんのことを見つめ続ける』って言っただろ? あの誓いは、今でもちゃんと有効だからさ」

「よかった……! 諒くんと仲直りできるなんて、本当に、本当に嬉しいな……っ」

光ちゃんはそう言うと、おずおずと、怯えるように手を伸ばしてきた。俺は迷うことなくその手をしっかりと握りしめる。彼女はそれでようやく安心したように、心の底からの笑顔を浮かべた。その綺麗な瞳から溢れた一粒の涙が、夕日の残光に照らされて、宝石のようにキラキラと輝いていた。

この笑顔を見て、俺は心に強く誓った。

――今度こそ、俺が一生、この子を命懸けで守り抜くんだ、と。

だが、この時の俺は完全に浮き足立っていて、到底気づくはずもなかった。

俺たちの後ろ、ほんのわずかな影の隙間から、八雲有紀(やくも ゆき)がじっとこちらを凝視していたことに。そして、彼女が固い決意を秘めた声で、そう呟いていたことに。

「――諒くん。今度こそ、私は絶対に、青木さんの手からあなたを救い出してみせる……!」

【幕間】ある時間軸の断章

「ねぇ、聞いた? 青木さん、あの高嶺の花の青木さん、なんか無理心中したらしいよ」

「マジで!? まさかでしょ、あの青木さんだよ? ……でも言われてみれば、最近ずっと学校来てないよね。っていうか、それどこ情報?」

「本当だって。私の叔父さんが警察に勤めててさ。今は学校側が必死に揉み消そうとしてるみたいだけど、もうすぐ隠しきれなくなるって。だって青木さん、超有名人だし」

「へぇ……。じゃあさ、相手の男って誰なの? ぶっちゃけ、そっちの方が気になるんだけど」

「確か……宮嶺(みやみね)くん、だっけ? あはは、私もあんまり印象にないんだけどさ」

「聞いたことない名前だねー」

クラスメイトたちの無責任な噂話が飛び交う教室の中で、八雲有紀は机に突っ伏したまま、完全に光を失った瞳で前を見つめていた。

両手は白くなるほどに固く握りしめられ、黒いショートヘアが無力に垂れ下がっている。爪が手のひらに深く食い込み、そこからじわりと、赤い血が滲み出ていた。

「全部……全部、私のせいだ。もし……私が諒くんに、青木さんのところへ行くように頼んだりしなければ。もし、私がもっと早く、青木さんのあの異常性に気づいていれば……。なんで、なんでなのよ、八雲有紀! どうしてあなたは、こんなにも無力なの……! 何か……何かやりなさいよ……っ!!」

(あぁ、神様。どうか私に免じて、お慈悲をください)

(もしも、もう一度やり直せるなら)

(もしも、時間を巻き戻すことができるのなら――)

(私は絶対に、青木さんの邪魔をして見せる)

(待っていてね)

(諒くん)

「私は絶対に、あなたを――救うから」


【あとがき】

以下、作者からのメッセージです:

本作は私にとって初めての執筆作品となります。当初は小説を書くなんてとても簡単なことだと思っていましたが、いざ実際に書き始めてみると、決して容易なことではないと痛感いたしました。

本作品を書き始めたきっかけは、私自身が年季の入った「ヤンデレ」好きだからです。有名・無名を問わず、大半のヤンデレ小説を読み終えた後、なぜか心にぽっかりと穴が空いたような虚無感を覚えました。「何かが物足りない……」そんな気持ちを抱いた私は、自らの手で理想のヤンデレを生み出そうと決意し、筆を執ることにしました。そうして生まれたのが本作です。

本作の執筆は去年の8月にスタートし、今年の2月に初稿を書き上げました。「面白そうだから」という思いつきから、Geminiを使って日文に翻訳し、カクヨムにて連載を始めさせていただきました。読者の皆様に楽しんでいただければ幸いです。

今後の展開についてですが、ずっと構想を練っているものの、まだ自分自身でこれだと思える納得のいく展開が見つかっておりません。この場をお借りして、皆様に深くお詫び申し上げます。

初めての執筆ということもあり、至らない点も多々あるかと思いますが、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。そして、私が生み出した宮嶺諒、青木光、八雲有紀といったキャラクターたちが、皆様の心に少しでも残ることを願っています。

もしこの作品を気に入っていただけましたら、ぜひ❤️や⭐️を贈っていただけると励みになります。どうぞよろしくお願いいたします!

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疎遠になった陽キャの幼馴染が徐々にヤンデレ化する事件 @Risuda

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