刀使いの少女

 非常鐘が鳴ったのは、昼過ぎだった。



「グリズリーの大群、北の森に出現——総数、二十を超える模様です!」



 受付嬢の声が張り上がった瞬間、ギルドの空気が変わった。一般の依頼じゃない。緊急討伐——受けるも地獄、放っておいても地獄の類だ。



 赤文字の依頼が掲示板に貼り出された瞬間、ギルド内の空気が変わった。

 


「グリズリーが大量発生だと……?」



「数が異常だぞ」 



「新人は出るな!衛兵に混ざって街の防衛を手伝え!」



 ざわめきが広がる。



 通常なら単体でも危険な大型魔獣。



 それが群れで確認された。



 放置すれば街道が潰れる。



 だから討伐隊が編成された。



 もちろん、タカヤとキアルも参加していた。













 森の中。



 折れた木々と血の臭いが充満している。



 巨大な爪が、目の前を薙いだ。



「ッ!」



 タカヤが身を低くして回避する。



 直後、キアルのレイピアがグリズリーの眼球を貫いた。



 だが。



「後ろ!」



 別の一体が突っ込んでくる。



 タカヤが一匹を引きつけている間にキアルが仕留める連携は機能しているが、いかんせん数が多すぎた。



 倒しても倒しても終わらない。



 巨体同士が互いを押し合いながら迫ってくる光景は、もはや津波に近かった。



 タカヤの剣が一体の首を裂く。



 キアルが別個体の脚を断つ。



 それでも包囲が狭まっていく。



「ちっ……!」



 キアルが舌打ちした。



 珍しく余裕が消えている。



 タカヤも呼吸が荒い。



 流石に多勢に無勢だった。



 その時。



 ――音が消えた。



 いや。



 速すぎて、遅れて聞こえた。



 一閃。



 空気を裂く銀線が、グリズリーの群れを横断する。



 次の瞬間。



 数体の巨体が、ずるりと滑り落ちた。



 断面から遅れて血が噴き出す。



「……は?」



 タカヤが目を見開く。



 そこに立っていたのは、一人の少女だった。



 黒髪をポニーテールに纏め、軽装のまま森の中央に立っている。



「ぼさっとするな」


 少女が、静かに刀を振る。



 血が飛ぶ。



 直後。



 彼女は地面を蹴った。



 速い。



 グリズリーの巨体の間を滑るように駆け抜ける。



 斬撃。



 また斬撃。



 音速じみた剣戟が次々と魔獣を切り裂いた。



 当然、グリズリーたちの敵意は彼女へ向く。



 咆哮。



 群れが一斉にサクナへ殺到した。



 ――その瞬間だった。



「今だ、キアル!」



「言われなくても分かってる」



 タカヤが飛び込む。



 グリズリーの側面へ剣を叩き込む。



 キアルのレイピアが急所を貫く。



 サクナへ意識が向いたことで、群れの連携が崩れていた。



 三人の攻撃が噛み合う。



 斬る。



 突く。



 断つ。



 さっきまで押されていた戦況が、一気にひっくり返った。



 そして数分後。



 最後の一体が崩れ落ちる。



 荒い呼吸の中、サクナは静かに刀を納めた。



 無駄のない動作だった。



 タカヤは、その姿を見ていた。



 黒髪が揺れる。



 汗に濡れた横顔。



 鋭い目。



 戦いの最中ですら一切乱れなかった剣筋。



 ――綺麗だ。



 そう思った瞬間、自分で少し驚く。



「……?」



 サクナが視線に気づき、わずかに眉を寄せる。



 タカヤは慌てて笑った。



「いやー助かった! マジで危なかったな!」



 いつもの調子を装った。



 キアルは倒したグリズリーの素材を無言で回収している。



 サクナも特に気にした様子はなく、淡々と刀の手入れを始めた。



 森には、戦いの余韻だけが残っていた。

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