序盤から、血と鉄の匂いが漂う遺跡での壮絶な夢の場面に一気に引き込まれました。勇者らしき友との共闘、あと一撃で倒せるはずだった強敵、そして最後に待っていた絶望的な反撃。ファンタジーの重い予兆から始まったかと思えば、目覚めた主人公は三十九歳、独身、バイト掛け持ちの冴えない中年男性という落差がとても面白いです。
主人公・中瀬賢造の自虐混じりの語り口が軽快で、重くなりすぎない読みやすさがあります。問題親父・虎之助との掛け合いもテンポが良く、パンの耳と卵から即席料理を作る場面など、生活感とユーモアが自然に出ていて好印象でした。
一方で、ダンジョンや探索者、スキル、魔素欠乏症といった設定も分かりやすく、現代社会にファンタジー要素が溶け込んでいる世界観にワクワクします。長年の虚弱体質が、実は「賢者」スキルによるものかもしれないという展開も意外性があり、主人公の人生がここから大きく動き出す期待感があります。
最後の「契約金二億」と、それを即座に売った親父のオチも強烈で、思わず笑ってしまいました。シリアスな夢、生活感ある現実、ダンジョン社会の設定、親子の軽妙な掛け合いがうまく混ざった、続きが気になる現代ダンジョンファンタジーです。
各話のタイトルがすべて「賢者はーー」というフレーズで始まるように、この物語はまさしく、一人の男が歩む「賢者」の物語。
主人公の39歳という年齢を活かし、若さや才能だけではなく、人生経験や諦念、それでも前へ進もうとする姿が魅力的です。
訓練中に倒れては診療室へ運ばれたり、随所に散りばめられた自虐的なユーモアに思わずクスッと笑わせられたりと、親しみやすさも抜群。
また、最強の探索者である澪との関係性の描写も丁寧で、コミカルの中にシリアスな空気や謎を置く緩急がとても巧みだと感じました。
「賢者」という強力なスキルを持ちながらも、まずは体力や健康を取り戻さなければ戦えないという現実的なステップを踏むところが興味深いです。
一般的な異世界ダンジョンものとは一線を画す苦労が描かれ、より身近に感じることができました。
やはり魅力は絶妙なユーモアタッチ。
仕事や日常に疲れて帰った後にこの物語に触れれば、きっと癒しが待っていることでしょう。
まだ拝読の途中ですが、おじさん主人公がどのようにして再起を果たしていくのか、とても楽しみです。
そんな年齢層高めの主人公が見せる前向きな姿をお楽しみください。
賢者。このレビューを読んでいるあなたはどんなイメージをお持ちであろうか。私は、『高貴なる強者』としてのイメージが染み付いていた。その場から一歩も動かずに強大な魔法を操り、相対する敵を荘厳に……そしてエレガントに葬り去っていく。そんな花形をイメージしていたのだ。
……ところが、本作の主人公、賢造はそんなパブリックイメージとは正反対の新しすぎる賢者である。200メートル走ったら力尽きる体の弱さに、家族や周りの人に振り回される情けなさと運のなさ、そして金欠を併せ持つ39歳である。かつてこれほどまでに不憫な賢者がいただろうか。見ているだけで別の意味で『ハラハラ』させられる。
そんな彼だが、それでも頑張っていきる。全ては、『ちゃんと一人で生きていける』ようになるため……
39歳、独身、フリーター。原因不明の目眩と借金に喘ぐ主人公『中瀬賢造』が、ある日突然告げられた己の正体。それは、世界に十万人に一人と言われる超希少スキル『賢者』だった!
破天荒なヤクザ実父に2億円で身売りされ、トップ探索者・東条澪が率いる超過酷ギルド「アイアンブラッド」へ強制入隊させられた賢造。
待っていたのは、開始200メートルで即気絶する、アラフォーの肉体を酷使した地獄のブートキャンプ! しかし、数々のポンコツエピソードを晒しながらも、周囲の優しさに支えられ、彼の内なる『賢者』の力が少しずつ覚醒を始めて……
謎の悪夢、鏡に映った見知らぬ男の顔、そして超エリートギルドに蠢く思惑。 これは、崖っぷちの「持たざるおっさん」が、世界最強の鑑定スキルを武器に、ダンジョンに挑むまでの前日譚。
クスッと笑えて、じわっと熱い、おっさん覚醒ファンタジーここに開幕!
体の不調を抱えながら、どうにか日々をやりくりしている主人公の姿に、まず引き込まれました。
ただ不幸を背負った人物として描くのではなく、生活のしんどさや情けなさを自分で茶化すような語り口があり、重くなりすぎずに読めます。笑っていいのか心配しつつ、ちゃんと笑える。この距離感がとても心地よかったです。
また、主人公と家族の会話に勢いがあり、遠慮のないやりとりの中にも、長く一緒に生きてきた人同士の空気がにじんでいます。雑に見えて、どこか放っておけない関係性があり、読んでいるうちに自然と二人の行く先を見守りたくなりました。
現代の暮らしに、別世界のような要素が少しずつ混ざっていく流れも楽しいです。最初は身近な生活の話として読んでいたはずなのに、気づけば物語の世界が広がっている。その広がり方に無理がなく、主人公の人生がここからどう変わっていくのか気になります。
派手な力を得て一気に無双する話というより、弱さを抱えた人が、自分の体や過去や周囲との関係をどう受け止めていくのかを読みたくなる作品でした。
体調や人生のままならなさを抱えた主人公が好きな人、軽妙な会話で進む現代ファンタジーを読みたい人、そして情けなさも含めて応援したくなる大人の物語を探している人に読んでほしい作品です。