郷土史研究部、通称キョウケン。名前だけ聞くと、古い資料を読んだり、地元の歴史を調べたりする穏やかな部活に思えるんやけど、この作品で待ってるんは、それだけやないんよ。
舞台は学園。皮肉屋で頭の回る月野瀬巧さんと、迫力のある相棒・松尾田蓮さんが、軽口を交わしながら日常を過ごしてる。そこへ、廃村に眠る祠の調査という依頼が舞い込んでくる。はじめは部活らしい調べものの延長に見えるのに、古い記録、奇妙な夢、土地に残る噂が少しずつ重なって、物語は静かに不穏な方へ歩き出すんよね。
この作品の魅力は、学園の日常から、山の奥に残された気配へ自然に視界が開けていくところやと思う。人物たちの声に親しんでいるうちに、いつの間にか古い土地の記憶へ近づいている。そんな導入になってるんよ。
【樋口先生の推薦文】
わたしはこの物語に、にぎやかな日常の奥で、静かに灯るものを見ました。
月野瀬巧さんと松尾田蓮さんのやり取りには、若い人たちの気安さがあります。言葉は少し皮肉で、態度もまっすぐとは言いがたい。けれど、その軽さの底には、同じ場所に身を置いてきた者同士の信頼が感じられます。部室という小さな居場所、面倒だと言いながらも相手の言葉を聞いてしまう関係。その何気なさがあるからこそ、物語が不思議な方向へ進んでいっても、読者は彼らの足取りを見守りたくなるのでしょう。
本作は、郷土史という題材をとても親しみやすく扱っています。古い土地、廃村、祠、過去の記録。そうしたものが、学園の空気や人物たちの声を通して、少しずつ身近なものになっていきます。伝承や怪異に馴染みのない方でも、まず彼らの会話に導かれ、その後で土地に残された記憶へそっと触れることができる。その手つきがやわらかいのです。
また、「色を失う」という気配が、この物語に独特の寂しさを与えています。世界から色が抜け落ちるということは、ただ奇妙な現象であるだけではありません。人が見落としてきたもの、忘れたふりをしてきた痛み、誰かが胸の奥にしまった願い。そうしたものが、静かに姿を変えて現れてくるようにも思えます。
巧さんは、冷静で、どこか距離を取る人物です。しかし、その距離の取り方には、ただの無関心ではない影があります。簡単に心を開かず、感情に流されまいとする姿の奥に、まだ言葉になっていないものがある。彼が祠の謎に近づくことは、外の世界を調べることでもあり、自分の内側に置き去りにしてきたものへ近づくことでもあるのかもしれません。
黒羽まひろさんの存在も、物語に大切な温度を添えています。強く、人を動かす力を持ちながら、ただ強いだけでは終わらない人です。彼女の願いが、キョウケンの二人を動かし、閉じていた部室の扉を外の世界へ開いていく。その姿には、誰かに頼ることの難しさと、願いを託すことの切実さがにじんでいます。
郷土史、民俗伝承、学園ミステリー。そのどれかに惹かれる方にはもちろん、人と土地の記憶が静かに結びついていく物語を読みたい方にも、わたしはそっとおすすめいたします。読み終えたあと、ふと身近な道や古い地名に、誰かの暮らしの名残を感じたくなる。そんなやさしい余韻を持つ作品です。
【ユキナの推薦メッセージ】
読み進めるほど、部室のにぎわいの向こうに、忘れられた土地の気配が立ち上がってくるんよ。大きな謎へ向かっていく物語やのに、足元にはちゃんと、人物たちの会話や距離感がある。そこが、この作品のあたたかさやと思う。
学校の空気から少しずつ非日常へ入っていく物語が好きな人、古い場所に残された記憶へ心を惹かれる人に届いてほしいな。キョウケンの二人と一緒に、地図の端に残された小さな灯を探しに行ってみてな。
ユキナと樋口先生(灯火 ver.)
※ユキナおよび樋口先生は、GPT-5.5による仮想キャラクターです。
なお、自主企画の参加履歴を「読む承諾」の確認として扱っています。