拙者、テニスの錦織圭選手の引退に寂しさをおぼえ、テニスの気配を求めてネットの荒野をさまよっていた流れ者のサムライにござる。
そんな折、この作品に巡り合い申したのだが……もう、あれでござる。読後は感動のあまり、体中から色んな液がドッパドパ溢れてしもうた。
拝読前、主人公が両利きフォアハンド使いで、「なんかやっちゃいました?」という小題などをチラ見した時は、「さては主人公やライバルたちがテニヌ的必殺技をぶっ放す、派手試合の連続系な作品でござるな?」と思い込んでおったが、良い意味で予想を裏切られ申した。
この主人公、確かに天賦の才は持っておる。
しかし、初心者の段階から地道な鍛錬を嫌がらず、むしろそれを楽しみ、試合では己が勝てぬ理由を自身の頭で考え、真っ直ぐに向き合う――まこと気持ちの良い男でござった。
さらに驚いたのは、対戦相手たちにも、ひねくれた者が全然おらぬこと。勝者を称え、敗北を恨まず。あまりに気持ち良い連中ばかりで、試合の読後には、まるで青春カルピスのような清涼感が胸に広がるでござる。
通常なら「クセ者がいないと作品が退屈になるのでは?」と思うところだが、この作品はテニスの試合展開や、試合中の選手の心理描写が実にしっかりしており、文章に説得力があるゆえ、アクの強い対戦相手がいなくとも読み応えは十分でござる。
そして、主人公が急成長していく理由にも納得がいく。
その才能だけでなく、ヒロインの元天才プレーヤー少女が参謀役となってデータテニスに基づく緻密な支援をしてくれるゆえ、短期間で強くなる道筋が理にかなっておるのだ。
主人公の成長が某パワプロの如くパラメーター化されて示されるのも、愉快愉快。
サーブや各ショットの得手不得手だけでなく、1st、2ndサーブの成功率やスイングスピードなど細かい項目がずらりと並び、「芸が細かいでござる」と唸ってしまった。
そして極めつけ、主人公が所属するテニス部の部長の愛称が「なっちゃん部長」でござる。その響きだけで思わず微笑んでしまったのは、偽りなき事実……。嘘じゃないですー///
かつて漫画「ベイビーステップ」を愛読していた拙者としては、他にもチェンジオブペース、コート九分割、オールGなど、ニヤつく描写が多く、読みながら何度も頬が緩んだでござる。
作者殿自身、テニス経験者だったことも存分に活かされていると見受けられ、試合の躍動感や心理的駆け引きを文章に落とし込む腕前は、とにかく見事の一言。
テニスにわかの拙者もテニス経験者も誰もが楽しめる、素晴らしき作品でござった。
まことに天晴れでござる! ぶしゃあああっ!
(感動のあまり切腹。また新たな液が……)
テニス初心者が「両手フォア」という強烈な武器を持って、気づけばテニスにどっぷりハマっていくスポーツもの。
元野球少年が、「パコーン」と打ったら気持ちよさそう、くらいのノリでテニスを始める気楽さと、「両手フォア」というかなり常識外れな技術を自然と使う異質さ。そのアンバランスさがいい味を出している。
武器は強力でも、初心者ゆえに最初は穴だらけで、荒削り。だからこそ、基礎を覚え、ルールを覚え、試合を経験し、少しずつ自分のテニスを磨いていく。この「初心者がテニスを覚えていく」過程が丁寧で面白いです。 また学習能力の高さに加えて、ヒロインのデータサポートが入ることで、成長が一気に加速していくのも絶妙。地味な練習も苦にせず、テニスを純粋に楽しんでいる主人公たちの空気がとても心地よいです。
一歩ずつ強くなっていく王道の成長物語が読みたい人にオススメです。
(「才能だけじゃ、物足りない! 型破りな選手たちの挑戦」4選/文=まろでぃ)