第11話「王立神器学院と落とし物係」
「……学院?」
朝食のパンを食べながら、レインは首を傾げた。
向かいに座るミナは、疲れ切った表情で頷く。
「はい。王立神器学院です」
「なんで?」
「王様が決めました」
「なんで?」
「……それを説明するのが私の仕事です」
ミナは深いため息をついた。
昨日、世界の欠損を拾って修復した少年を、そのまま街に放っておくわけにはいかない。
王国、教会、冒険者ギルド。
三者の協議の結果。
**「学生として保護・監視する」**
という、誰も納得していない結論になった。
「学校かあ」
レインは少し考えた。
「落とし物、多そう」
「そこに反応しないでください!」
---
数日後。
王立神器学院。
王族、貴族、優秀な冒険者が集う名門校。
校門の前には多くの生徒が集まっていた。
「あれが例の?」
「世界を救ったって噂の?」
「いや、ただの平民らしいぞ」
ひそひそ声が広がる。
レインは気にしない。
校門の前でしゃがみ込んだ。
「……あった」
石畳の隙間から、小さなボタンを拾う。
「誰か落としたのかな」
その瞬間。
一人の少女が青ざめた。
銀色の髪を揺らしながら走ってくる。
「そ、それ!」
「私の制服のボタンです!」
レインは差し出した。
「はい」
少女は受け取る。
すると制服全体が淡く光った。
「え?」
魔力が安定し、壊れかけていた防御術式が修復される。
周囲がざわつく。
「ボタン一つで神器制服が直った?」
「あり得ない……」
少女は目を丸くした。
「ありがとう……ございます」
レインは頷くだけだった。
「落ちてたから」
---
昼休み。
学院中が噂で持ちきりになる。
「落とし物を拾うだけで神器を修復する平民」
「学院長が直せなかった術式を一瞬で」
そんな話が飛び交う。
その頃、レインは中庭にいた。
「……まだある」
花壇の横で光るもの。
しゃがんで拾う。
古びた鍵。
錆びている。
「またゴミかな」
カチリ。
音がした。
学院の地下から振動が伝わる。
ゴゴゴゴ……
地面が揺れた。
「地震!?」
生徒たちが悲鳴を上げる。
学院長が顔色を変える。
「まさか……封印庫が!」
---
地下深く。
誰も開けられなかった古代の扉。
その鍵穴が、静かに光っていた。
学院長は震える。
「伝説の神器庫の鍵……」
「千年間失われていたはずだ」
全員の視線がレインに集まる。
レインは鍵を見て首を傾げる。
「落ちてた」
学院長は膝をついた。
「そんな場所に落ちているわけが……」
---
そのとき。
校舎の屋上から、金髪の少女がこちらを見ていた。
王女リシア。
その隣には聖女エルナ。
さらにミナもいる。
リシアが小さく笑う。
「また何か拾いましたね」
エルナは静かに目を閉じた。
「ええ」
「この人は、歩くだけで運命を拾います」
ミナは空を見上げる。
「お願いだから普通の学生生活をしてください……」
---
レインは地下へ向かって歩き出す。
何も知らないまま。
その視界の奥で。
今まで見たことのない、金色の光がゆっくりと瞬いていた。
「……あれも落ちてる?」
その一言とともに。
千年間閉ざされていた学院最大の秘密が、静かに目を覚ます。
**第12話へ続く。**
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