第3話 アンチヒーロ
目の前で、女性が強盗にあっている。しかし、誰も助けない。なぜなら、国家公務員「ヒーロー」が、必ずこの事態を集結してくれるからだ。
《清く、正しく、良い心をもって楽しい毎日を!》
「はーい、皆さん。怪獣の始末が終わりましたー!」
「いつも、応援ありがとうごさいまーす!」
今やヒーロは市民から絶大な人気を誇っている。有無を言わさず、絶対的な正義、安全を保証してくれる。20年前と比べても、怪獣による被害率が50%も低減している。人間による犯行など滅多に見られない、本当に良い世の中になった。
だが、おれはそんな社会が大嫌いだ!
ちょっとゴミを落としただけで、ヒーローからボコボコに殴られた。友達をからかって叩いたら、ヒーローからドロップキックを食らった。お母さんのお弁当を残したら、ヒーローからミミズを投げられた。おまけに、バランを口に詰め込まれた。
もはや個人情報なんて、ないんじゃないかと疑う程の、監視っぷりだ。本当になんで、お弁当残したこと知ってるの?
とにかく、定期的に怪獣が現れるものの、基本的に平和だからヒーローも暇してるんだ、きっと。なんだか、正義の定義が分からなくなってきた。
この社会はあまりに、弱者に優しすぎる。この前のニュースでは、1人の子供を無視したとして起訴され、15人の子供が無期懲役の判決を言い渡された事件が報道された。ちなみにおれも、赤切符を3回切られている前科持ちだ。
モヤモヤしている矢先、視界が覆われ、足元を取られた。
「あ、すんません」
人にぶつかったようだ。
「ん、ん、んん? あんたァ何ぶつかってんのよォ!! わたくしは、御歳85歳だわよォ!」
顔面蒼白になって立ち尽くす。人生の終わりが見える。
「ご、ごめんなさい。どうか、お許しください」
「チッ。許すわけなくてよォ!」
そうこうしてるうちに、人たがりができていた。
「皆さーん。道、開けてくださいねー! 素敵な貴婦人。どうかされましたか?」
「あっらァ!! ヒーローじゃないのよォ。遅いわよォ。あの、子供がぶつかってきたのよォ」
「こんなご婦人にぶつかって、慰謝料も渡さないなんて、悪ですね。列記とした始末対象です」
やばい、目眩がする。本当に終わりだ。「ごめんなさい。どうか許して」
……と言うとでも思ったか?普通の人ならここで諦めて、大人しくお縄に頂戴していただろう。しかし、おれはこんな世界に臆しない。
じゃあ、この窮地からどうやって脱却するか。このおれに、最適解の策がある。あとは、タイミングを待つのみだ。
「ご婦人、本当に申し訳ありませんでした。これ、お詫びと言ってはなんですが、『5歳の子供が描いた絵』になります。」
「んーー? まァ、よくできてるわねェ! こんな徳の高いものをあんたが持ってるなんてェ、世の中面白いわねェ!」
老婆が屈んで、受け取ろうとする。瞬間、この紙を丸めて車道へ投げ捨てた。
「な、なんてことするのォ! 早く、あの紙をとって、ヒーロー!」
「まずは、あの貴重な絵を助けなくては!」
ヒーローは構わず車道に飛び出る。
「夫人! こちらでごz」
突然時速60キロで走る車に激突し、激しく血を吹き出し倒れた。思わず吹き出した。こいつら、バカだ。
街は騒然としている。老婆は白目を剥き、地に伏せ、釣りたての魚のようにピクピク泡を吹いている。この騒動を聞きつけ、次々とヒーローが集ってきた。
もう、誰も老婆に無礼をした少年の事など忘れていた。
やっぱり、善だけを追求する世界ってダメだな。そう思うよな? 平和すぎると、ヒーローも暇しちまうだろ? じゃあ、どうやって奴らのスケジュール帳を文字列まみれにしてやろうか。簡単だ、おれが悪者に、モリアーティ教授になってやればいいんだ。名探偵ホームズも忙しそうに楽しくやってただろ?
_____と言った経緯で、おれ達「アンチヒーロ」はここに集っている。先程も言ったように、目的は憎きヒーロー達の注意をそらすことだ。お前ら、引き締めて、悪戯するんだ!いいか?!
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