第5話 巡る力
第5話 巡る力
焚き火の火は、すっかり小さくなっていた。
洞窟の外では、いつの間にか雨音も弱くなっている。
アルケインは静かに立ち上がると、洞窟の入口へ視線を向けた。
「……雨は止み始めているな」
アインは顔を上げる。
自分の服を見ると、焚き火のおかげか、濡れていた布もほとんど乾いていた。
「そろそろ帰った方がいい」
「え……」
その言葉に、アインの胸が少しざわつく。
帰る。
その言葉だけで、昨日の出来事が頭を過った。
才能無し。
笑い声。
両親の顔。
アインは俯く。
だがアルケインは、そこを無理に追及しなかった。
「家の者も心配しているだろう」
「……はい」
小さく返事をし、アインはゆっくり立ち上がろうとする。
その瞬間。
「っ……!」
足に鋭い痛みが走った。
崩落した時にぶつけたのだろう。
今まで気を張っていたせいで忘れていたが、身体のあちこちが痛かった。
アインは思わずよろめく。
するとアルケインが静かに近付いてきた。
骨の足音に、アインの身体が反射的に強張る。
「動くな」
低い声が響く。
アルケインはアインの前へ片膝をついた。
青い眼光が傷口へ向けられる。
「打撲と裂傷か。骨まではいっておらんな」
「あ、あの……」
「少し治す」
アルケインは静かに骨の指をアインの足へ向けた。
その瞬間。
淡い青白い光が、指先から静かに溢れ出る。
「……!」
アインは思わず息を呑んだ。
光は激しくない。
だが、不思議と温かかった。
まるでぬるい水が身体の内側を流れていくような感覚。
「魔法とは、本来“流れ”だ」
アルケインの低い声が洞窟へ響く。
「治癒魔法も同じ。魔力を循環させ、身体本来の治癒力を高める」
青白い光が、傷口を包み込む。
「傷を無理やり消しているわけではない」
アルケインは続ける。
「身体の流れを整え、再生を促しているのだ」
アインは目を見開いた。
足の痛みが、少しずつ消えていく。
裂けていた皮膚が、みるみる閉じていくのが分かった。
「う、嘘……」
アインは震える声を漏らす。
こんな魔法、見たことがない。
怪我を治せるのは教会の高位神官だけだと聞いていた。
しかも治癒には高額な寄付が必要で、村人が簡単に受けられるものではない。
「すごい……」
思わず呟くと、アルケインは淡々と言った。
「本来、そこまで珍しいものでもない」
「え?」
「昔はもっと身近な魔法だった」
その言葉に、アインは目を瞬かせる。
王都でも高位神官しか使えない奇跡。
それを、この賢者は当たり前のように扱っている。
やはり千年前の魔法は、自分の知るものとは全く違うのだと感じた。
アルケインは手を離す。
すると、痛みはほとんど消えていた。
アインは恐る恐る足を動かす。
「なおってる……」
「完全ではない。無理に動けばまた開く」
アルケインは静かに立ち上がった。
その姿を見ながら、アインは胸の奥が少し熱くなるのを感じる。
怖い。
見た目はやはり恐ろしい。
けれど、それ以上に。
目の前の存在が、とても“凄い”ものに見え始めていた。
「あの……!」
気付けば、アインは声を上げていた。
アルケインが視線を向ける。
青い眼光に少し肩を震わせながらも、アインは続けた。
「ぼ、僕にも……魔法って、使えるんでしょうか」
洞窟が静まり返る。
アルケインはしばらくアインを見つめていた。
やがて。
「……お前、自分の魔力を感じたことはあるか」
「え?」
「目を閉じろ」
静かな声だった。
アインは戸惑いながらも、ゆっくり目を閉じる。
「身体の奥を意識しろ」
アルケインの声が響く。
「お前の魔力は、普通ではない」
その言葉に、アインの胸が小さく震えた。
「深すぎる」
低い声が落ちる。
「まるで底の見えぬ水だ」
アインには意味が分からなかった。
だが。
胸の奥に、確かに何かがある気がした。
静かで。
重くて。
深い熱が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます