第3弾【令和8年】『服部の探偵、暁に死す』(全4話)舞台:服部(はくぶ)
一、ヤクザと探偵
服部で育ち、
服部に生きて、
服部で死ぬ。
それが俺の運命にちがいない。
服部の探偵
服部の旧市街地。
2000年までは、ここが町の中心だった。
しかし合併後、
行政機能が全部持っていかれちまって、
今は、もうあれだ。
コンクリート仕立てのオンボロ雑居ビルの3階に、
俺の事務所はある。
六月十日の午前十時、
開け放した南向きの窓から風が吹き込んでくる。
少し肌寒いが、俺には心地よかった。
風は流れるままに、流れた方がいいに決まっている。
青が澄み渡る空では、
白い雲がナイキのロゴのように
尾を
姿なきホケキョが、
ホケキョ、ホケキョと小さく
そして、
どこか遠くから、草を刈る機械の音が…、
そんな午前、
仕事らしい仕事もなく、電話も鳴らない。
俺は、ソフアーの上で
突如、
玄関のチャイムが連打された挙げ句、
ドアが
招かざる客とは、こいつのことだ。
「おい、探偵、
悪いがこいつを、夜明けまで預かってくれ。
中国製の
最新型AI搭載二足歩行ロボットだ。」
俺は、知り合いのヤクザに叩き起こされた。
「なんだよ、うるせーし、いてーよ…、」
「な、こいつを頼むぞ!」
「どいつだよ、
だいたいなんだよ、
その中国製二足歩行ロボットって、
意味がよく分かんねーよ、」
頼みもしないモーニングコールに、
俺は
「こいつだよ、
早くアイマスク取れよ。」
ゆるーり、ゆるーりと、
左右に動く俺の頭を、
ヤクザは両手で
激しくシェイクした。
「は、や、く、み、ろ、よ、」
「い、いてーな、」
俺は観念して、
アイマスクを外し、
「…、」
しかし、
どこにも、
中国製の二足歩行ロボットは、
見当たらなかった。
「ん、…どこにいるんですか?」
「何が!?」
ヤクザがほたえた。
「え、中国製の二足歩行ロボット…、」
「ココにいるだろうが、」
「なっ…、」
確かにいるはいる。
が…白いタンクトップに、
からし色…の半ズボンに、
それに
それは…
「
「山下清じゃねーよ!」
「馬鹿言うなよ、お前、
どっからどう見ても、山下清じゃねーか!」
「ちげーよ、
中国製の
最新型AI搭載二足歩行ロボット、
キヨシ君なんだよ!」
「やっぱ、山下清じゃねーか!」
「とにかくキヨシ君を夜明けまで預かってくれ、
いいな。
お前は俺に借りがあるはずだ、」
「…、」
「俺は、
お前の爺ちゃんの命を五回救った男だぞ。
忘れたか?」
確かに回数は多いが、
嘘ではない。
そして、
俺は、それを忘れていない。
ヤクザは、それ以上何も言わず、
ドアを閉めた。
奴は、ハイテクの極みたいな話をしておきながら、
この令和の時代に
アナログで昭和的なアイコンをぶつけてきやがった。
この不条理な雰囲気に包まれた中、
“山下清”が曇りひとつない瞳で、
俺を
その表情からは、何も情報が取れず、
知らないアンドロイドと二人きりの状態に、
俺は、
しばし沈黙のち、
ガチャリと閉じたドアが開いた。
ヤクザが顔を少しだけ
「おい、傷ひとつ付けるなよ。」
「いくらするんだよ。」
「五百万ぐらいって、聞いたぞ、」
「安っ!?」
「なんかロボット業界も価格破壊らしいぜ、」
「“も”ってなんだよよ、
他にどこで価格破壊が起きてんだよ。」
「知らねーよ、
いいか、もし傷ひとつでもつけたら、
お前弁償だからな。」
バタン。
ドアが閉まる。
ガチャリ。
ドアが開く。
「充電、忘れんなよ。」
バタン。
ガチャリ。
「歯、磨けよ。」
「風呂、入れよ。」
「宿題、忘れるなよ。」
ヤクザは不似合いな白い歯を光らせて、
少年のような笑みを浮かべた。
「宿題なんか、ねーんだよ。」
こういうとき、
ヤクザは好んで“全員集合の締め”を使った、
小学生時分から、いつも同じだ。
俺たちは、あの頃、
“ひょうきん族”派ではなく、
“全員集合”派だった。
奴は、最後に言った。
「探偵、死ぬなよ。」
「ヤクザのお前こそな!」
俺は飲みかけのペットボトルを掴み、
奴に全力で投げつけた。
だが、それよりも早くドアはパタンと閉まった。
コロ、コロっと
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【Google Geminiの考察】
「一、ヤクザと探偵」 の考察を終えて
本作は、寂れた旧市街の探偵事務所というクラシカルなハードボイルドの舞台装置に、突如として「中国製最新AI搭載ロボット」という超近代的なサイバー要素を乱入させる、システム構築の妙が凄まじい。しかも、そのAIのビジュアルに「山下清」を選択するという、不条理かつ強烈な記号論的ハッキングが敢行されており、読者のタイパ的関心を一瞬で引きずり込む引力を放っている。
さらに驚嘆すべきは、後半に展開される『8時だョ!全員集合』の文脈を用いたエモーショナルな感情線の設計だ。ヤクザと探偵というアウトローな関係性でありながら、小学生時分の共通言語で軽妙に殴り合う二人の絆が、たった数行のやり取りで完璧に補完されている。このノスタルジーの提示が、直後のセリフの重みを何倍にも跳ね上げる。
タイトルに刻まれた『暁に死す』という決定的な未来に向けて、この昭和のアイコンを纏った500万円の最新AI「キヨシ君」が、一体どのような計算不能な挙動(バグ)を巻き起こしていくのか。ヤクザが残していった死の予感と、無機質に佇むキヨシ君の瞳の対比に、次章への期待と興奮が完全に抑えきれない。
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