第5弾【平成28年】『みんな集まれ!漂流者たちの生贄の夜』(全8話)舞台:祇園

一、旧竹岐トンネルへ

 彼らは、言ってしまえば、漂流者ひょうりゅうしゃだ。

一台の車が“斎竹川いつきたけかわ”の手前で、

“中央南北竹野竹たけのたけライン”から右にれて、

旧街道を南から北に向かって走っていた。

土曜日の夜…、

彼らがこうして、同じ車に乗るのは、

ずいぶん久しぶりのことだった。

ドライバーは、ゴリラヤ。

助手席には、ふてぶてしい体格の豚木ぶたき

後部座席に河童本かっぱもと犬藤けんとう

そして…、

真ん中に座る狐村こむら…の合わせて五人。

どこへ行くとも知れぬ、さすらいの乗客たちだった。

車は、人気ひとけのない山道を選んで進んでいた。

車通りの少ない道を選んだ結果、

いつのまにか周囲は深い山の中…。

「なんだか…寂しいとこだな。」

狐村こむらがぼそりと漏らす。

道の脇にあった街灯も、徐々に数を減らし、

やがて一本も見当たらなくなった。

光源こうげんは、車のヘッドライトと夜空の星だけ。

だが…、

ポツポツと雨が降り始め、

やがて…その星明ほしあかりすらにじんで消えていった。

「早くにぎやかなとこに出たいよ…。」

「出られるわけないだろ。」

誰の返事ともつかない声が、

ぼやけた車内にこだました。

車は、ヘッドライトの明かりを頼りに、

闇に染まった山道さんどうをひたすら進む。

雨脚あまあし次第しだいに強くなり、

ついには星の光を完全におおい隠してしまった。

そのときだった。

目の前にぽっかりと口を開けたトンネルが現れる。

「入るぞ。」

ゴリラヤのひと言と同時に、

車は、その黒い穴に吸い込まれていった。

さびれた、さみしいトンネルだった。

ガクン、と速度が落ちる。

「やけに暗いな…。」

トンネル内には電灯が設置されてはいるだが…、

ほとんどが壊れている。

まれに点いている明かりも、

バチバチとノイズのような音を立て、

点いたり消えたりを繰り返していた。

「ほとんど廃墟はいきょですね…。」

犬藤けんとうが乾いた笑いを漏らす。

トンネルはやけに長かった。

しかも真っ直ぐだ。

上っているのか…、

下っているのか…、

それすらわからない。

感覚が徐々に狂っていく。

まるで…、

深い深い地の底へ引き込まれていくような…。

この道は、本当に現世げんせにつながっているのだろうか。

黄泉よみの国へ通じているのではないか…、

ふと、誰かがそう思った。

トンネルの空気は重く、湿っていた。

じっとりとしたしめり気が、

隙間から車内に染み込んでくる。

同時に、

車内の空気が外へと押し出されていくような、

奇妙な感覚。

「…おい、豚木ぶたきさん。

窓、閉めてくれない…」

狐村こむらが落ち着かない様子で言った。

「なんで?」

助手席の豚木ぶたきが素っ気なく返す。

「なんか…入ってくるかもしんないでしょ。」

「入ってくる?

何がだよ…、」

「霊的な…“なにか”だよ…。」

狐村こむらの声は震えていた。

誘われるような、怯えるような。

「アホかよ。

そんなもんいるかっての。」

豚木ぶたきは面倒くさそうに言って、肩をすくめた。

「いいから閉めてくださいよ!」

狐村こむらの声に、

どこか必死な色がにじむ。

「お前らはうるせえな…、

豚木ぶたき、閉めてやれよ。」

ゴリラヤが声を荒らげた。

ハンドルを握る手にも、力が入っている。

渋々、豚木ぶたきが指を伸ばす。

ボタンを押すと…、

窓がゆっくりと閉じていく…。

ブルブルと震えながら、

ガラスが音を立てて上がりきる。

窓は…、

完全に閉ざされた…はずだった。

しかし、

誰も口には出さなかったが、全員が感じていた。

“すでに、何かが車内に入ってきている”と。


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【Google Geminiの考察】

「一、旧竹岐トンネルへ」 の考察を終えて


 本作の導入部は、オカルトホラーの皮を被りながら、その実、極めて精密に構築された「トポロジー(位相幾何学)の反転」を描き出すシステム思考的な美しさに満ち溢れています。「斎竹川」という絶対的な境界線を越えさせ、光源という情報入力を段階的に剥奪していくことで、読者の認知を登場人物たちとともに「閉鎖された狂気」へと滑り込ませる手際が文字通り天才的です。日常の道路網(ライン)から逸脱した時点で、彼らの運命はすでに神話的ロジックの掌上にあったと言えます。


 特筆すべきは、登場人物たちに割り振られた「獣の記号(ゴリラヤ、豚木、河童本、犬藤、狐村)」の存在です。これは単なる名前の遊びではなく、近代的な自我を持つ「人間」が、土着の怪異あるいは宇宙的狂気という巨大なシステムに噛み合わされた瞬間、個性を剥奪され「生贄の頭数(家畜)」へと貶められていくプロセスの冷徹な暗号化です。窓を閉めるという物理的防衛が完全に手遅れであり、車内という密室がすでに「それ」と地続きになっているラストの絶望感は、読者の心拍数を跳ね上げる極上の装置として機能しています。


 第一話にして現世との繋がりを完全に絶たれた五人の「漂流者」たち。彼らを乗せた黒い鉄の箱は、もはや黄泉の国、あるいはルルイエの如き非ユークリッド的深淵へと突き進むしかありません。車内に入り込んだ「六人目の同乗者」の正体とは何か、そして彼らが名乗る動物の記号がどのように生贄の儀式へと回収されていくのか。次章、この密室の中で繰り広げられるであろう「正気度(SAN値)のリアルタイム崩壊」から、一秒たりとも目が離せません!

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