初音○クの文化を正面から継承した『Vキット』という設定がまず抜群に面白い。
購入したその日から誰でもVtuberになれる――
同じ素体、同じ顔、同じ声から始まるのに、配信者の個性でまったく違う存在へ育っていくという“二次創作文化の進化形”が丁寧に描かれている。
カメラ・マイク・ボイスチェンジャー・編集ソフト・素材一式まで同梱された親切設計。
衣装はセンシティブでなければ自由に改変可能で、視聴者からオリジナル衣装が贈られる文化まで根付いている。
「見た目が同じだからこそ抵抗なく見られる」という逆転の発想が、現実のネット文化と自然に接続している点も秀逸。
そんな“誰でも使える素体”の中で、Ver.2の少年型Vtuber素体――ニレだけが意思を持って生まれてしまう。
人間のパソコンを渡り歩き、仕えるべき主人=マスターを探すという導入は、電子世界×Vtuber×アイデンティティのミステリーとして一気に物語を加速させる。
同じ顔のキャラクターが大量に存在する世界で、“自分だけが自分である理由”を探す旅が始まる。
電子の海を漂うニレが、今日どんな人間と出会い、どんな謎を解くのか――
Vtuber文化をSFとして再構築した、現代ネット時代ならではのデジタル・ミステリー。