技術を理解されず居場所を失うという構造を、ベテラン建築士と美大受験というリアルな掛け合わせの設定に落とし込んだ本作。
まず魅力を感じたのは、圧倒的な描写力による「視覚」へのアプローチです。
デジタル化の波に押される昨今において、手書き図面の時代を生きた65歳の耕介が鉛筆を握り、デッサンする出来ばえが丁寧に描かれる筆致に惹かれました。
絵画という新しい現場で「半世紀、本物のコンクリートや鉄と戦ってきた圧倒的な経験値」を発揮する「プロの職人技」によるカタルシス。
そんな耕介自身は決して芸術家気取りではなく、どこまでも「もと建築士」として行動する姿も魅力的です。
絵画を構造計算や力学の蓄積によって生み出すという視点も新鮮で、「本物」を目撃した者たちのリアクションは読んでいて痛快そのもの。
ぜひ、そんな独特の美意識で彩られた世界を覗いてみてください。
主人公の背景から、鉛筆で描いていく動き、部屋の空間と人との距離。
そして描かれたものと、物質が目の前にあるかのように、とにかく、物語の中の世界が見えてきて、小さなどよめきから周囲の息を飲む音が聞こえてきて、そして張りつめるような空気感をこの作品の文章からは感じることが出来ました。
本当にコンマ数mmのゆがみがある、だからそう線を引く、という様子が、その場に立って音を立てながら見える感覚を覚えて背筋がぞわっとしました。
私のつたない語彙でレビューするというのも正直おこがましいと思えるくらいです。
それでも伝えられることはお伝えしたいと思い、書かせていただきました。
続きを楽しみにしています。