カレーを作った後の後始末。お皿や鍋は普通に洗えますが、問題なのはお玉です。
付着したカレールゥを洗い流すべく、水道の蛇口をフルオープン。ほとばしる奔流にお玉の背を近づけると、付いていたルゥが面白いように流れ落ちます。しかしそのままお玉を返すと……。
戦国時代初期を舞台にした本作は、三題噺「住」「像」「工場」への応募作品。「工場」だから近代を扱うのかなという私の安易な予想は、見事に裏切られました。こんな「工場」の使い方が。
しかし、それ以上に見事なのは作品内容。ある戦国武将とその寵愛を受ける家臣について、二人の気持ちのささやかな齟齬が描かれていますが、その食い違いは……という内容です。ちょっとした行為・不作為が、想像を超える悲劇をもたらすことがある――そう、水流をもろに受けたお玉が逆心を抱き、私の上半身めがけてカレールゥ混じりの奔流を浴びせてくれたように。お玉ひっくり返しただけなのに。
歴史に「もし」は禁物ですが、ついついその禁忌を破りたくなるような歴史作品を描くのが四谷氏の真骨頂。歴史、特に戦国史に興味のお持ちの方は必読の掌編です!