どこにでもある日常のやり取り。
善良な主婦のふり。
真面目な店員のふり。
ふりとふりが噛み合った瞬間、レジ台の上にあったのは紙片ではなく、互いの獣性を確認する合図。
語り手の観察が細かすぎ、そこまで見るのかという視線の粘度が素晴らしい。
そして駐車券に似せたカードが差し出され、日常のシステムが、突然、狩りの道具になる。
駐車券が、注射権に変わる。
言葉遊びめいたズレの先に、どうしようもなく下品で、どうしようもなく生々しい欲望が現れる。
この物語の誘惑は若さや美しさではなく、
「君の中にある、誰にも見せていない飢えを私は見抜いている」という誘惑なのだ。
この誘惑に勝てる気はしない。
豚がまだ青年だった頃のレジバイト中に、注射権なんて謎の権利を授受されたら、危ないと分かっていてもホイホイついて行ってしまうかもしれない。
この短編のすごさは、日常なことだ。
いるのは、ただ生活に疲れ、欲望を最後まで諦めきれなかった人間たちだけ。
スーパーという清潔で明るい場所から、ホテルの一室へ一直線に落ちていく速度が音速。狩りのスピード速くない?という疑問すら許されない。
読後にはもう「駐車券」という言葉が元の意味に戻らない。どうしてくれよう。
豚の脳内ではレジバイトに駐車券渡す事に事案発生である。
日常の視点がずれた瞬間、人間の奥に隠していたものが刺さってくる。
最低で下品かもしれないが、目が離せない連作。