瀬戸内の港町・帆ノ緒市を舞台に、喫茶あさがお、坂道、祭り、旧映画館通りなど、町の中に残る小さな怪異と向き合っていく物語です。
この作品を読んでいて強く感じたのは、怪異そのものの怖さ以上に、「町に残ってしまったもの」へのまなざしの優しさでした。
帰り道がずれる子どもたち。
どこか落ち着かない灯り。
届かなかった言葉。
受け取りに来なかった写真。
どれも派手に襲いかかってくる恐怖ではありません。
けれど、日常の中にほんの少しだけ混じった違和感が、静かに、確実に胸の奥へ残っていきます。
凪紗は怪異を力で祓うのではなく、向きや順番を読み、返すべきものを返していく。
柊羽は紙や記録、人の言葉をたどりながら、置き場所を失った出来事に居場所を与えていく。
この二人の役割がとても美しく、怪異譚でありながら、町の記憶をそっと整えていく物語のようにも感じました。
また、食べ物の描写が本当に印象的です。
鱧、だし茶漬け、たこ飯、潮汁、プリン。
どれもただ美味しそうなだけではなく、「人が帰ってくる味」として物語に深く結びついています。
怖い場面のあとに食卓の温かさがあることで、この町で生きている人たちの暮らしまで大切に思えてきました。
失われたもの、言えなかった言葉、帰りそびれた気配。
それらを無理に消すのではなく、ちゃんとあるべき場所へ返していく。
静かな不穏さと、懐かしさと、祈りのような優しさがある作品です。
読んだあと、いつもの道や、なじみの店や、町に残る小さな風習を、少し大切に見つめ直したくなりました。
瀬戸内の港町を舞台にした物語は、日常の小さな異変が描かれます。
帰り道が少しずれたりといった異変が続くと不気味さが増し、どんどん物語に引き込まれました。
ただ特徴的なのが、不気味さの中にも風景がどこか懐かしく、港町の穏やかな空気を感じ取れるところ。
そういった空気づくりが秀逸で、不穏でありながらの心地よさを読みながら感じたものです。
印象的だったのは、柊羽のもとへ「削除したはずの動画が消えない」と連絡が入り、不可解なコメントが次々投稿され始める場面。
現代のSNSや動画配信を通じたゾクリとする恐怖と、さらなる異変の広がりという構成の巧みさに驚きました。
まだ拝読の途中ですが、決して重いホラーではなく、ミステリー要素も織り交ぜた、人の想いに歩み寄る物語。
ぜひそんな静けさの漂う怪異譚をお楽しみください。
本作は、敵を退治するようなオカルトアクションではなく、主人公たちが町の言い伝えや順番を読み解き、ずれてしまった出来事に“置き場所”を与えるという、理知的なミステリー的要素をもつ一作です。
怪異を「倒す」のではなく「還す」という独自の民俗学風アプローチに加え、バディ要素もあり、お互いを補い合いながら町の調和を保っていく展開もまた、本作の魅力の1つと感じます。
作者様の手腕は、作品の空気づくりです。
喫茶店や古い街並み、祖父の日記を紐解く様子など、全体に漂う静かで、読み手は読み進めるほどにノスタルジーを感じる構造となっております。
瀬戸内の静かな港町を舞台に、記録を綴る青年と怪異を司る恋人が、町に生じる小さな歪みを優しく紐解き「還して、整えていく」民俗学ホラー×喫茶店ファンタジー。
伝奇を紐解くような、不安さとワクワクを味わいたい方はぜひ一度お読みください。
おすすめいたします。
冒頭から描かれる瀬戸内の港町・帆ノ緒市を舞台に、帰り道を見失った子どもや、向きを違えた祭りの灯り、写真に映るはずのない坂の景色など、少しだけずれた人や記憶、風景が描かれます。
不気味でありながら、どこか懐かしく切ない世界観が印象的でした。
特に心に残ったのは怪異への向き合い方です。凪紗は祓うのではなく、本来あるべき場所へ返し、柊羽は記録と言葉で居場所を与える。倒すのではなく整える、その静かな姿勢が作品全体を包んでいます。
港町の坂道や喫茶店の灯り、食卓を囲む時間など、丁寧に描かれる日常に異界が溶け込む空気も心地よく、派手な展開はなくとも、失われたものに静かに寄り添う物語が好きな方にはきっと響くはずです。読み終えたあと、自分の中の「帰るべき場所」を思い出したくなる、温かな余韻の残る作品でした。
好きなんですよ、私。
現代もので民俗系を交えたホラー。
いや、ホラーっていっても、ゾンビがギャーとか、血がブシャー、バトル、ばきばき!とかじゃなく。
地域限定のあるある風習が、実は重大な意味を含んでいて。
それなのに、「ん? あれ? 誰だよ、こんなことしたの」って感じでタブーが破られていて、結果的に…………。
恐ろしいことが( ゚Д゚)!!!!!!!
みたいな。
おまけに、その怪異と対峙するのがバディとだったりしたら……。
最高すぎるやん……。私の好きをついてくるやん……。
この作品は、地域情報誌作成の会社に勤める柊羽と、その恋人で喫茶店あさがおで働く凪紗のふたりが中心になって進んでいきます。
彼らが住む帆ノ緒市にある、とある坂。
そこで異変が起こり、なんかこう……道に違和感を覚える子どもが増えるんですよね。
誰かに呼ばれた、とか。道が増えた、とか。普通に帰っていたつもりなのに、帰宅時間が遅くなった、とか。
この怪異にいどむ柊羽と凪紗。
物語は始まったばかりですが、凪紗の「食事」に対する姿勢や、食づくりについて今後いろいろ展開されそうな予感、大です!!!
また、この作者さんの『【出張版】さまよえ? カクヨムの森~③コンテストを攻略せよ!2026』【出張版】さまよえ?カクヨムの森~③コンテストを攻略せよ!2026』(神霊刃シン)https://kakuyomu.jp/works/822139844995618689も、大好きでよく参考にさせていただいています。
あわせてどうぞ!
瀬戸内の小さな港町が舞台の現代ホラー。
ホラー以外にも、青春、ミステリー、お仕事、グルメと欲張りな内容で楽しませてくれます。
主人公は、社会人男性、柊羽(しゅう)。恋人の凪紗(なぎさ)は、すこし変わっていて、町では「道返し様」の名称で呼ばれる事もある、力を持った存在。
そんな二人が、町でおこる不思議な出来事に向かい合ってゆく。
現代を舞台にしているからこそ、ふとした瞬間、現実がずれる感覚が秀逸で、読んでてゾクゾクする、オカルトホラーです。
文章は読みやすく、話はさくさく進んでいきます。
────もし、坂の途中で名前を呼ばれた時、すぐに振り返っていたら……?
そのような、ちょっと気になるキーワードが随所にちりばめられ、読み始めると、続きが気になってしまいますよ!
おすすめです。