第38話 隠し事は感心しないなー?

 月見里やまなし家は、フユカの住む別邸を含めて京都内に四つ存在する。


 中でも五重塔付近に建てられたフユカの住む家、<にしき亭>は特別で、ほかの月見里家の人間と分家は誰一人として出入りできないと言うルール・・・がある。

 口約束ではなく月見里家の血を引く者は全員、強制的に従わされる絶対的な妖術による掟であり、フユカの為に作られたもの。


 フユカ自身はそれを知らない。知れば恐らく、出て行ったはずなのに月見里家に囚われている感覚に陥るからである。


 これは、フユカを守るためであり、フユカ以外・・・・・を守るためである。




 ⬛︎⬛︎⬛︎





「フユカは?」

「百鬼夜行時点で、恐らくかなりの力を貯めているかと。」


 月見里家本殿。京都の山奥にある大きな神社の最深部で、ナツカは跪いたまま話していた。

 話している相手は実の祖父、月見里アキヒト。

 かつての月見里の当主であり、大型依頼ワールドクエストを二度、成功させ帰宅した記録のある英雄。


「そうか。月見里家の次期当主戦の際、遊月ゆうげつの者に事故に見せかけて始末させろ。」

「……お言葉ですが……月見里の命令を聞くでしょうか?」

「フン、当主の座でもチラつかせろ。それで聞くだろう。最悪の場合、ユイエンを使え。」

「…………かしこまりました。」


 月見里家の上澄み、ナツカと両親、祖父母のみが知っていること――――――月見里フユカが宿人である、と言うもの。


 フユカは、産まれた時から右目のみが青く深い、夜の色であった。

 歳を重ねる事に左目と同じ色合いになっていき、特に問題は無いと思っていたのもつかの間、フユカが産まれて六年目の歳を迎える頃、初めての意識交代が起きる。


 意識交代。宿人に起こりうる現象であり、自身の中に居る妖怪と身体の主導権を切り替えるもの。


 その際に発した言葉は短く、フユカ自身も記憶にないとの事だった。


 名乗りと期限。


 ―――妾は月夜見ツクヨミ。十年後、この身体を貰い受け、世界を夜に落とす。


 それだけ言うと、直ぐにフユカに意識が戻ってしまう。

 フユカに別状はなく、それ以降の意識交代も起きていない。


 ……が、しかし。

 今回行われる月見里家の当主戦。時期がフユカの誕生日と同じ日付。

 それも、月夜見が言っていた十六の歳を迎える誕生日である。


「……ナツカ。」

「はい。如何なされましたか?」

「百鬼夜行はしっかり殲滅したのか?」


 百鬼夜行。ヤマタノオロチが率いる妖怪の集団。

 星界高校を襲撃した際、幽世の中に居た事は月見里の上層部に既に伝わっているようだ。


「……はい。しっかりと。」

「…………そうか。下がれ。」

「はい。」


 月見里ナツカは、重度のシスター・コンプレックスである。

 妹であるフユカを守るためならば、何を引き換えにしても守る、そんな事は周知の事実。

 フユカ自身も知っていることである。


 ――――――――が。


 アキヒトによる遊月を使ってのフユカ暗殺の命令。

 二つ返事で承諾するということは、今までのナツカは偽りの姿である、ということになる。


 月見里家の人間として生きる以上、親、上層部の言う事は絶対であり、反論するなど許されない行為である。




 ⬛︎⬛︎⬛︎




「げほっ、げほっ……。もう一回お願いできますか!」


 月見里家本殿にナツカが呼ばれてから三時間後。

 ユイエンは、ナツカと手合わせをしていた。


「……ええ。かかってきなさい。」

「……はい!」


 弓を弾く。

 ユイエンの使用する武器、機械弓きかいきゅう<ルーラー>は、上段下段の歯車によって最小限の力で、最速で矢を引くことのできる特別な武器である。


 飛ばされた三本の弓矢は、それぞれ別の方向へと向かい、ナツカを囲むように地面に突き刺さる。


「っ、妖術―――!?」


 矢に結ばれた札に刻まれた妖術は【灰火椿ハイカツバキ】。爆発する妖術であり、ユイエンの得意とする戦法。


 が、ナツカには通用しない。


 発動する前に札を全て、切る。

 真っ二つに切られた札は効力をなくし、不発となる。


「っ……!!」


 【灰火椿】が防がれたことによってユイエンの得意とする煙幕による目くらましが出来ない。


 ならば、自らが起こすしかない。


 拾った石をナツカに投げる。


「……こんなもの、時間稼ぎにも―――!?」


 石がナツカに到達する前に崩れる。

 刀を石に向かわせていたナツカは空ぶったことによって、少しの隙が生まれた。


「…………運が良かった、です!」


 ナツカの刀がまだ宙にあることを確認したユイエンは、即座に懐に潜り込み、蹴りを入れる。


 否―――入れたと思っていた。


「バレバレよ、ユイエン。」


 刀を握っている方と反対、左手で足を受け止めて前方に投げ返す。


 それと同時に<ルーラー>を固定・・した。


 特殊妖術【時計守とけいもり】、月見里家に伝わる妖術であり、物体をその場に停止させるもの。


「…………降参……です!」

「……ふう。……昔はあんなに強いって言われていたのに。どうしたのかしら。」

「あはは! 酷いですね? ……ま、ボスが強くなりすぎなんですよ!」


 ユイエンは笑ったまま、頭を搔く。

 空中に浮いたままの<ルーラー>に体をもたれさせて、ナツカに言った。


「……それで。…………何かあったんですか?」

「……っ。なんで。」

「なんででしょうね。昔から一緒にいたんですから。

 ……わかるよ、ナツカちゃん。

 どれだけ偉い立場になって、みんなの前でも私の前でも頑張っても……隠し事は感心しないなー?」


 ユイエンは、人間でなければ妖人あやかしびとでも無い。

 妖怪であり、はるかな時を生きていた。


「ナツカちゃんの随分前の代から、ずっと仕えてきたんです。

 …………ボスだけじゃなくて、上の考えてることまで分かりますよ。」

「っ……。」

「それで……、どっちを選ぶんですか? ボス。」


 ユイエンは、もたれかかっていた状態から起き上がって、<ルーラー>を手に持ったまま言った。


 

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