不思議なカフェ
紙絵
第1話 序章
広島本通商店街。その一角。賑わう通りから一本路地に入ったそこに、不思議なカフェはあった。
お店の開戸は、猫用ドアが付いている。
左右には植木鉢が置かれ、季節毎の花が咲いている。
犬飼ソラは、ここでバイトをし始めてもうすぐ一年になる。
「お疲れ様です」
ドアを開けると、背の高い男性がエプロン姿で立っていた。
「お疲れ」
橘家カイは大学生だ。ここの店長であり、ソラの彼氏だ。
サラサラの髪と整った顔で、ソラは女性と間違えた事がある。
お店の床では、三毛猫のミーちゃんが日向で丸くなっている。常連の猫である。今は飼い猫をしている。
窓際には沢山の鉢植え。
この鉢植えは、昨日は枯れて茶色になっていたのだが、今日は緑色に戻っているようだ。
「ミーちゃん寝てる?」
「もう寒くなってきたからね、日向はあったかいよね」
カイはミーちゃんを優しく見ている。
「ソラちゃんもお昼寝したいんじゃない?」
「確かに、気持ちよさそうです」
ミーちゃんと一緒に寝る想像をする。
「ふふふ」
カイは笑うと、ソラの頭をポンポンする。
ソラは不意打ちに赤くなる。まだ慣れない。
「俺もお昼寝混ぜてほしいなぁ」
「いいですよ、一緒にお昼寝したいですね!」
「ソラちゃんは本当に……」
ソラの言葉に、今度はカイが赤くなっている。
「仕事するか」
エプロンをつけると、二人は植物の手入れを始める。
始まりは一年前……。
◇
大きな門の向こうに立派な日本家屋。庭には小さな池があり、錦鯉が優雅に泳いでいる。庭園は丁寧に手入れされ、雑草は見当たらない。街でも有数な名家、橘家だ。
寒さも去り、暖かな日差しが眠気を誘う。
カイは眠い目を擦りながら、はなれから庭へ目をやる。何やら騒がしい。
「桜が咲いた!」
「言い伝えは本当だったのか……」
植えてから一度も咲いたことのなかった桜に花が咲いたのだ。
桜の木は皆を見下ろし、まだ小さな桃色の花弁を揺らす。
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