ブルーマーセナリー
山田タカトシ
第1話
ブルーカフェ
エプロンを付けカウンターに入る。
美沙希は、店の外に出て箒をかけている。
木製のドアに貼られたプレートには
【BLUE CAFE】と刻まれていた。
コーヒー豆は3種類しか置いてない。
拘りでもなんでもなく、自分で飲んで飽きなかったものだけを選んだ。
キリマンジャロ ゲイシャ ブルボン
この3種類だけを飲み続けた。
客のリクエストには応じなかった。
軽食メニューは、ピラフとアメリカンドックのみ。
これは、誰が食べても「旨い!」と口にしてしまうほどだった。
特別な調理法も食材も使ってはいなかった。
長年、過酷な環境で過ごした経験から、どんな材料でも旨いものを作ることが出来るようになっていった。
生き残るために。
蒼井隆は、この店のオーナーだった。
妻の美沙希と2人で暮らしている。
店舗の奥が居住スペースになっていた。
今朝も店を開けると、数組の客がやってきた。
ブルーカフェ2
カウンター越しに、いつもの常連客と他愛もない世間話をする。
コーヒーを淹れて飲ませる。
自分も合間を見て飲む。
日によって微妙に味わいが異なってしまう。
コク、酸味、甘さ。
過酷な環境では、なぜか味を体調によって変えることが出来た。
疲労が重なるときは甘く。
頭を働かせる必要があるときは酸味を強くした。
帰国してからは、それが出来なくなっていた。
蒼井は、元傭兵だった。
高校を卒業後、自衛隊に入隊した。
特殊作戦郡に入るべく訓練を受けていたが、ある想いが強くなり、抑えることが出来なくなってしまっていた。
どうしても『本物の戦場』に行きたかった。
三年で除隊すると、海を渡り、戦争状態にある国へ入国した。
思想も主張もどちらでも良かった、ただ戦闘に参加したかった。
五年間、傭兵として闘ったがその国は敗れた。
元々ひとつの国だったものが、いくつかに別れ、その戦争により、ふたたび元の国に組み込まれた。
その結果さえ、どうでも良かった。
ブルーカフェ3
その戦闘で1人の仲間を失った。
名前はタラス・メルニク。
国を離れ暮らしていたが、故国の状態を憂い傭兵として舞い戻った。
国籍は既に外国人だったため傭兵となった。
彼から学ぶことが多く、蒼井は彼の事をウチーテリ(師匠)と呼んでいた。
タラスはそう呼ばれるたびに、照れたように笑った。
彼は蒼井をサムライと呼んだ。
一瞬の出来事だった。
1機のドローンが飛び込んできた、蒼井の眼前でタラスの肉体が四散した。
敗戦後、日本に帰国したが、その国がどうなったのかを知ることはなかった、自ら遠ざけていた。
稼いだ金で店を開き、アルバイトで雇った女と籍を入れた。
傭兵として闘ってから八年が過ぎていた。
毎日、味わいが変わるコーヒーを客に出し、旨い!と言ってもらえる二種類の食べ物を作る。
そんな生活に戦争は遠くなり、単調な日々が通常のものとして身体の一部になっていった。
美沙希が掃除を終えて店に戻る。
「キャベツ買って来ようか?最近高くって…」
「……そうだな、そろそろ切れる頃か…」
そんな会話を交わしていると、1人の客が入ってきた。
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