この作品を読んでいる間、私は物語を読んでいたというより、夏の朝露が残る山道を誰かの後ろについて歩いていたような気持ちになりました。
卯花という少女は不思議なのに懐かしい。まるで子どもの頃に一度だけ会ったことがある存在を思い出すような感覚があります。そして颯人が見失っていたものを探していく姿は、絵を描く人だけではなく、「昔は好きだったのに、いつの間にか離れてしまった何か」を持つ人の心にも静かに届くと思います。
特別大きな事件が起きるわけではないのに、ページをめくるたびに風の匂いや木漏れ日の色まで見えてくるのが不思議でした。読み終えたあとには、胸の奥にしまい込んでいた大切な記憶の箱をそっと開けたような気持ちになります。
優しい物語です。でも、ただ優しいだけではありません。忘れていた「好き」の原点を思い出させてくれる、燕の羽のように軽やかで、夜空の星のように長く心に残る作品でした。
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