恋愛小説として読み始めて、途中から静かに解剖されていく感覚になる。
物語の軸になるのは「十七絃」という楽器だ。恵が小柄な身体で廊下をよろけながら運んでいたその楽器は、ただの道具ではない。読み終えてみると、それが「恵が一人で背負ってきたすべて」の比喩であることがわかる。光希はあの廊下で片側を持ち上げて重さに驚き、それで恵に惹かれたはずなのに、いつのまにか荷物を下ろして身軽な側に立ち続けていた。
恵の別れ方が、この作品の核心だ。怒らない。責めない。過去の傷口を開かない。ただ「ちゃんと大事にされたかったんだと思う」という一言だけを、天気の話をするような穏やかさで置いていく。その静けさが、どんな叫び声よりも深く光希の胸に刺さる読者の胸にも。
章タイトルが「発火」「葬送」「庇護」と続く「アデノシンの花束を、」(ジェフティ)とは対照的に、こちらの章タイトルは「枝垂れ桜の下で」「静かな終わり」と、ただ景色の名前だ。その静けさの選択が、作品の性格を全部表している。
完結済み4話・約1万2千字。短いが、読後の余韻は長い。