第35話 <つくば>への道

遠征中に本拠地が強襲され、引き返してきたサートゥスが見たものは、幼いルージュを守るように腕に抱きしめて息を引き取っていた妻の姿であった。

ミーシャス亡き後のサートゥスは人間に対する憎しみを募らせ、戦いを求めるように戦争を拡大させていった。


「ミーシャス様亡き後のサートゥス様は、まるで戦闘を求めるように、ジェミアテラ全体に戦火を拡大させていきました。それと同時に戦争に反対する魔族を粛清し、戦争に傾倒していったのです」

ベルゼスは当時を思い出し、眉を潜め唇を噛み締める。

「人間たちは、やがて異世界<つくば>から勇者を召喚するようになりました。召喚された勇者たちは手強く、戦争は膠着状態になり、ついにはサートゥス様も召喚された勇者テツヤによって倒されてしまったのです」

そこまで言ってベルゼスは眉を潜めたまま、深く瞑目し、言葉を切った。


「そうよ、その勇者テツヤが全部悪いのよ!」

興奮に駆られたルージュは憤慨を隠さずにテーブルを強く叩いた。

ルージュの言葉にベルゼスは静かに首を振る。

「いえ、サートゥス様は性急過ぎたのです。魔族の定住地を手に入れるのならば、もっと穏健に話を進めることもできたはずなのです。戦争を拡大させず、一定のところで交渉の場を持つべきだったのです」

「なによぉ!パパが全部悪いっていうの!」

ベルゼスの言葉に、ルージュはさらに怒りを募らせてしまう。


「そうは申しておりません。性急過ぎたと申しているのです。ルージュ様、今はお辛いでしょうが我慢すべきです。今を乗り切れば、以前のように魔族と人間が共生できる世界が来るはずです。今は耐えて下さい」

怒りで顔を真っ赤にしているルージュをベルゼスは静かに諭す。

普段ならばベルゼスの言葉にルージュも怒りの鉾を収めたかもしれなかったが、今日は無理だった。


「なによ、なによっ!ベルゼスもパパのことを悪く言うの!もう、ベルゼスなんて知らないっ!私が勇者テツヤをやっつけて、パパの意志を継いでやるんだから!」

そう言うと、ルージュはテントを飛び出し夜の空へと羽ばたいていった。

「お、お嬢様!」

ベルゼスは後を追おうと思ったが、今のルージュには何を言っても届かないであろうと思い、肩を落としながらテーブルのカップを片付け始めた。


(絶対に勇者テツヤをやっつけてやるんだから!それまでは戻らない!)

そう怒りにまかせてルージュは夜の空を飛んでいく。

冷たい空気がルージュを包み込み、火照った頭を冷静にさせる。


(でも、どうやって勇者テツヤを探そう?勇者テツヤは<つくば>に戻ったって聞く。でも、私じゃゲートは開けられない。ベルゼスに頼めば、開けてくれるかもしれないけど……)

啖呵を切って飛び出してきた以上、ベルゼスに頼むことは嫌だし、頼んだ所でベルゼスは絶対に開けてくれないだろう。

(うーん、どうやって<つくば>に行けばよいんだ?誰か<つくば>へのゲートを開けてくれそうな人はいないかしら?)

ルージュは手近な木の枝に腰掛けて悩んでしまった。


「お嬢さん、どうされましたかな?」

背後から声が掛けられる。

ルージュが振り返ると、いつの間にかルージュの背後には一人の男が浮かんでいた。

男はフード付きのマントを身にまとい、フードを目深に被り、空中を滑るようにルージュの隣へと移動してくる。


「誰よ、あんた」

「誰でも良いではありませんか。それより、あなたのような可愛らしいお嬢さんが、こんな夜更けに何をなさっているのです?」

胡乱げな目で見てくるルージュを気にもとめず、フードの男は聞いてきた。

ルージュは、この際男が何者でも構わないと思い、思いの丈をぶつけていく。


「……ふむ。お嬢さんは<つくば>に行きたいのですね?」

「そうよ。<つくば>に行って勇者テツヤをやっつけて、パパの仇を取ってやるんだから!」

ルージュが鼻息荒くそう言うと男はニヤッと笑った。


「素晴らしい。私も以前はサートゥス軍に所属しておりまして、サートゥス様の仇を取りたいと思っておりました。サートゥス様の仇を愛娘であるルージュ様が取られるのでしたら、魔族は再び結集し、サートゥス様が目指した、魔族の定住の地をかならずや手にいれることができましょう」

「そ、そう?」

男の歯の浮くようなセリフに、ルージュは思わずはにかんでしまう。


「よろしい。私が<つくば>へのゲートを開けてしんぜましょう」

「え?あんた、そんなことできるの?」

いとも簡単にゲートを開けるという男の言葉にルージュは驚いてしまう。

「ええ。我が魔力を持ってすれば造作も無いことです」

そう言って、男がなにやら呪文を唱えると、ルージュの目の前に、マーブル色に輝くゲートが出現した。

「さぁ、ルージュ様。ゲートが開きました。ここを通って<つくば>に行き、勇者テツヤを倒しましょう」

男が芝居がかった調子で言い、恭しく頭を下げた。

「うん。わかったわ」

ルージュはゲートを通っていった。

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