コントラクターのお仕事
どんどこ太郎
プロローグ
「神は必ずしも我々に喜びを与えるものではない。善きものにも、悪しきものがある。」―レドモンド・ビンス修道士
言葉だけが残り、異端の天才は歴史の闇に静かに葬られた。それはこの世界の二面性を如実に表しているのかもしれない。
闇が生まれ、闇は光が生まれて初めて自分を理解した。光から火が生まれ、火を沈める水が生まれた。火と水から土が生まれ、土は草木を生み出した。草木は揺れて、風が存在することを示した。
この創世記は、誰しも一度は必ず耳にしている。子守歌や昔話、伝承、これらは創世記に集約される。この冒険譚には関係がない、かもしれない。
「本当にこの依頼、受けるんですか?」
ギルドの受付嬢は訝し気な言葉と視線を向けた。二人は顔を見合わせ、迷いなく答えた。
「「金が手に入るなら。」」
受付嬢は少し額を掻いてから、依頼人に連絡すると話して奥へと引っ込んでいった。二人の冒険者、キース・ノックスとアルは受付嬢が戻ってくるのを待っていた。沈黙がつまらないと口を開いたのはキースだった。
「なぁ。アル。この依頼、どんな依頼人が出したんだろうな?」
「知りませんよ。今から会えるのですから、静かに待てば良いだけ。」
「まぁ、それもそうだな。」
彼等が会話していれば、思ったよりも早く戻って来た受付嬢がこれまた眉間に皺を寄せて、彼等に向き直った。
「明日の昼の鐘が鳴る頃にお越しください。依頼人が来るようなので。」
「ほいさ!了解!あ、ねえねえ、お姉さん。退勤後は何すんの?よかったら俺と飯でもどう?」
「キース。貴方、この前、金をスられて一文無しでしょう。」
「あ、馬鹿!いやね、お姉さん綺麗だからさ!気になっちゃって!じゃあね!」
受付嬢が心底醜い汚物を見るようにキースを見ていたのは言うまでもない。
キース・ノックス。二十歳の人間。彼は大盾を振り回し戦う前衛だ。彼の豪快な戦法は、傍から見れば向こう見ず、さらに悪く言えば無鉄砲に見えるだろう。しかし、彼には彼なりのロジックがある。そう、正面突破で突っ込まれると、大抵の者は面を食らうのだ。それを人々は考え無しと言うのだが。
アル。彼はエルフだ。華美な装飾がある装備を嫌い、銃を専門とする後衛だ。正確無慈悲な射撃は彼の性格を表している。エルフと言えば弓だが、これには深い訳がある。彼が元人身売買人だということが関係しているのかもしれない。
彼等は馴染みの酒場に足を運んだ。木造住宅の、ギルド近くにある何でもない酒場。しかし、情報を得るにはこれほど向いている場所もない。先程の依頼、大抵の者は断っているとの事だった。割がいい仕事には裏がある。冒険者として、そこを嗅ぎ分けるのは必要不可欠なスキルでもあるが、彼等の嗅覚はこれをただの仕事だと嗅ぎ分けた。
「やぁ!キース!アル!よく来たね~。アンタたちまだ生きてたんだ!」
酒場の女主人メルバ。彼女の酒場にはこの町の情報がすんなり入ってくる。それは彼女の顔の広さと、ちょっとばかしの影のおかげだ。
「物騒なこと言うなよ、メルバ。俺達はこれでも一級品の冒険者なんだぜ?」
「馬鹿言って~!この前、キースと傷だらけで喧嘩しながら帰って来てたじゃないのさ。」
「あれはアルが俺の指示を聞かなかっただけだろ~?」
「キース。お前の指示なんてありません。あそこ狙って!のどこが指示なんですか?」
「おっと、ここで喧嘩するのはやめてよね。それで、ここに来たってことは、何か知りたいことがあるの?」
アルは静かに依頼書をメルバの前に置いた。メルバはそれを見るなり、片眉を上げて微笑んだ。キースはアルの金で酒を煽っていた。
「これはアンタたちにぴったり。ドライな冒険者なら問題ないだろうよ。『殉教者の護衛』なんて。」
キースは聞きなれない言葉を繰り返した。アルは舌打ちをして、腕を組んだ。殉教者、それも、あの忌々しい光の神『レミア』の狂信者である。
光の神レミア。文字通り光を司る女神だ。彼女は喜びを暗示し、彼女の光に焼かれた哀れな信者は、さらなる光を追い求めて自滅する。
「やはりね。面倒だが、我々ならいけるでしょう。」
「殉教者って何?」
「神の為に命をドブに捨てる阿呆な連中のことですよ。」
はーん、と顎を擦るキースを後目に、アルはこの依頼は報酬の割に、何故、誰も手に付けなかったのかを理解していた。メルバはそんなアルを視界に入れながら、依頼書を指ではじく。
「この依頼人、特権階級だね。文字が綺麗すぎる。」
「マジ!? がっぽり儲かるじゃん!」
「特権階級の殉教者……」
アルはまた乾いた舌打ちをした。
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