ダンジョン暮らしのイリスアリア ――才能ゼロの少女は生き抜く。
うきうき
第1部蘇る”初代”ダンジョン始動編
ただ、生きることが誰にとっても生存競争
第1話アーヴェンとしての最後の日
1ー1 アーヴェンとしての最後の日
差し押さえられた屋敷を追い出されて・・・・・・何か月が経っただろう?
白い息の揺らめきが風に消えて・・・・・・めまいがした。
呆然と立ち尽くしているだけで、今日は頭に雪のお饅頭のできあがりです。
「はぁ、朝から雪が降るなんて、この調子だと今夜は吹雪くんでしょう。
宿の隙間風対策をしなければ。
藁でも詰めておきましょう」
私―――アーヴェン・イスカは生きる為に何でもしようと、両親が死んだ日から決意しました。
「思い出すな。今日もただ、歩くだけです」
けれども、心は揺れ動く。
貴族として人を使う側だった自分。
今や、人に使われる側である自分。
どこか、視界が遠い…………。
ここ、三か月、肉体労働が続きました。
奴隷商での奴隷の身体清掃。
「人の身体を拭くのって案外、力がいるものですね・・・・・・。
奴隷さんたちの疵痕を違う人の体液が滲んだ布で拭く。
肌触りの優しい布で拭いてあげられませんでした。
あれじゃあ、医学書で読んだ通りに化膿してしまう。
忘れられません、心苦しい」
酒場での用心棒。
「さすがに酔っ払いに殴られそうになったのには、肝が冷えました。
近づいてくるおじさんの酒の匂いが胃に張り付いている気がします」
建設現場での木材運搬。
木材に当たった右足が未だに痛い気がします・・・・・・。
生地が薄くなったズボンに包まれた膝を何度も擦った。
顔を上げると、新居売り出し中と書かれた看板の近くにある一軒家に目が止まります。
「あの家に私の膝が当たった木材が組み込まれていると思うと・・・・・・」
痛みがぶりかえして顔をしかめた。
ダンジョン内のポーター。
「ダ、ダンジョンに置いて行かれたらモンスターのお腹暮らし! ど、どうしようと漏らしそうになりましたぁ・・・・・・」
コロシアムの遺体処理。
「コロシアムの側溝にゲロを垂れ流しては、口の中が切れて唾液まで赤くなる日々でした」
・・・・・・などなどと働きづめ。
やつれてゆく自分と一緒に少しずつ、身につけていた母親の形見である手袋の指先の布が破れてゆく。
決して―――
「頑丈で、明るい朱のデザイン! アーヴェンの黒い瞳に、ちょっと茶色い目の色にぴったりでしょう。少しはオシャレにならないとパトリシアちゃんがもらえないわよ」
―――と余計な言葉を贈ってくれた母の愛はもう、新しく受け取れないんだよ! と風に手袋のほつれた糸が舞った。
「さよならなんてしたくなかったよ・・・・・・、みんなぁ」
「さぁ、働きましょう。貧乏暇なしですね」
手袋を眺めた後、職場へと足を向けます。
「生きよう。
生きてお嫁さんをもらって子を育むんです。
生きた証を残して、あの世でよく生きたとみんなで讃え合いましょう」
さくっ、さくっと雪を踏みしめる音。
まだ、日が昇らず、辺りが薄暗い。
勤勉なトレジャーハンターさえもまだ、眠りに就いているだろう。
貴族階級であった少年に在りがちな細い身体に鞭打って、急ぎ足で職場に行く。
書類仕事しかしたことがない貴族のお坊ちゃんにできる労働は少ないのです。
本日はゴミ拾いです。
マシな部類。
途中、自分の両親のかつての領地内であったから当然、私を覚えていて、
「お坊ちゃんがゴミ拾いかよ。貴族の誇りとやらは何処へいった?」
と、腹を抱えて嗤われます。
魔法を総べる女神 日本人種神様の頂点 久瀬花梨(くぜ かりん)様の天使たちがカリン教会に派遣されていて、人間は彼女たちからパラメータを最低 一ヶ月に一回は調査させないと死刑に処される。
パラメータの紙に才能が書かれるのが普通です。
しかし、私は一つも手に入れられない。
どうしてか? 解らない。
おまけに能力も低いので、どんな暴力も致命的になります。
「運が良かった。
暴力は身体をよけいに鈍くします。
身体中が痛い」
あちらこちらの筋肉が悲鳴を上げていた。
それでも、ゴミ拾いの仕事に向かう。
私の担当は貴族や裕福な上級庶民が過ごす観光地用自然式ダンジョン。
このダンジョンにはスライムが定期的に出現します。
それがゴミというわけ。
スライムの魔力を利用すれば何人も庶民が生き残れるというのに・・・・・・。
人間には上下があるらしいです。
身体を作っているものは同じですのにね。
そんな理屈は通じない生存競争世界。
グラグラと揺れる。
私の横を颯爽と走り抜けてゆく馬車が二重に見える?
「お、おかしいぞ! あっ・・・・・・」
「あれ? なんだか……。冷たいや」
なんで? 倒れているのでしょうか。
頭が回らないです。
胸の辺りが徐々に熱を帯び始めている気がした。
雪が死に際の布団とは洒落が効いています。
ぐぅーとお腹が鳴る。
「そういえば、乾燥したパンしか食べていなかったなぁ。
訳あり商品しか食べられない身には贅沢なんて言えないですよ」
終わりゆく魂を運ぶ死神の少女が何もない空間から現れる。
鎌を構える。
曇り空から覗く光る鎌の刃に雪の一粒一粒が辺り、何だか幻想的です。
「待て、死神。
まだ、ちゃんと死んではいないだろう?
どうせ、死ぬのだ!
その前に私が実験体として利用しても良いだろう!」
困惑する死神を居ない者として、声を荒げる男性は近づいてくる。
「このぉ! 雪の癖に! 邪魔だ!」
雪に埋まるブーツをものともせずに、仰向けに倒れる私へ寄って来る。
そして、首を毛むくじゃらの腕が包み込んだ。
「お嬢ちゃん? 悪いな。
どうせ死ぬのだ。
社会貢献して来世はビッグな女になろうぜ。
なぁに、失敗しない。
失敗して死んでしまえば、私はジール帝国法に則って裁かれる」
「あっ! ノルアルダ様!」
「あん? 文句あるのか!
こっちはクレラリラ第一王女様の病 ギズオジ病の治療薬を開発中なんだよ。
イライラしてんだ。
くそっ、研究で酒も飲めない!」
普段、お酒を飲んでいるからなのか? 肌が全体的に赤い。
これは近い内に身体に酷いダメージを食らうでしょう。
代表的なのが精神を司るエーヴァが腫れ上がり、心が変調するピオィーン疾患でしょうか?
後は―――
死にそうなのにいつもの世界観察病です。
自棄に冷静なのは自分の死を受け止めきれていないのでしょうか?
「ひぃ! どうぞ! どうぞぉ」
死んでしまったら回収するのだろう? 死神の少女は鎌を両手で握りしめてモジモジとその場で身体を震わせている。
可哀想なことを、と思ってくれているのならば救いはあるが。
そうではなく、寒いな。速くしろ! だったら救えない。
どうでもいい、と荒くなった息と共に痛みがぶり返す。
胸辺りだろうか? 泣きそうなくらい痛い。
抵抗しようとしたが………身体が1センチも動かなかった。
歪んだ視界には強欲そうな中年男性の顔。
なんとなく、骨付きチキンをいっぱい食べていそう。
終わるのか?
ピンク色の薬の入った瓶。
とても、身体に悪そうだ。
しかし、栄養が偏る生活をしていた自分と、視界に映る薬のどちらが身体に悪いのだろうか?
答えはすぐに。
瓶を口に突っ込まれて、そのまま、強制的に薬が注入される。
むせる体力もなく、ただ、空の樽のように中身が満たされてゆく。
身体がふわりと宙に浮く感覚。
なんだか、とても、眠い。
そんな眠気には歯が立たず、意識を手放した。
最後に―――
「やべぇ! お前、死んでないがやべぇことになってるじぇねぇか。
おい、ジョセッフ、適当に証拠隠滅しろ。
殺すなよ! 殺人ってのは足が付く。
さぁ、速く!」
どこまで身勝手なやつなんだという声が聞こえます。
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