老いた陰陽師が、嫉妬の情念に憑かれる怪談話です。傲慢かつ邪悪、見るに見かねる醜悪な情念――その心理描写が非常に印象的でした。とても善人とは呼べないそれに、しかし読むうちに呑まれていきます。前途ある人の好い若者への怨念の気持ちに、すうっと読んでいる側の心も寄ってしまう。だからこそ、翁の末路を思えば一層ぞっとしてしまう。人の怖さを改めて感じた怪談話でした。
密語橋の怪という祟りの構造が、物語のテーマそのものと多重に絡み合っている。 杉の囁きの使い方も巧みで、序盤では死へ誘う呪いとして機能し、中盤では晴明を称賛して惑わせる罠となり、終盤では晴明の家の未来を予言する託宣へと変貌する。 同じ囁きという現象が、語る内容を変えながら、読む者の足元をじわじわとずらしていく。読み終えてから振り返ると、あの声はずっと真実を語っていたのだと気づく。