第6話 返しきれない人

 藤崎ふじさき理人りひとは、しばらく紬を見ていた。


 階段の踊り場には、雨上がりの匂いが残っている。古いビルの壁に染み込んだ湿気と、革靴についた水の匂い。外の光は少しだけ白く、階段の手すりを鈍く光らせていた。


「少し、お時間ありますか」


 藤崎が言った。


「はい」


 そう答えてから、紬は少しだけ戸惑った。


 この人のことを、まだ何も知らない。


 父の下で働いていた人。

 高瀬たかせ先生には、返しきれないほどお世話になった、と言った人。


 それだけだった。


 けれど、その「返しきれない」という言葉が、通帳に並んでいた100万円と重なって、紬の足をその場に留めていた。


 藤崎は階段の上を一度見た。


 高瀬会計事務所の扉は、まだ半分ほど開いている。中から電話の音と、誰かが紙をめくる音が聞こえた。


「ここでは、少し話しにくいので」


 藤崎は、申し訳なさそうに笑った。


「下の喫茶店でもいいですか」


「喫茶店?」


「このビルの1階にあるんです。古い店ですけど、話すにはちょうどいい」


 たしかに、ビルの1階には喫茶店があった。


 今まで何度か前を通っていたのに、入ったことはなかった。入口のガラス扉には、金色の文字で「珈琲」とだけ書かれている。店名は、古い看板の色が褪せていて、読もうとしなければ目に入らない。


「でも、藤崎さんは事務所に戻られるところだったんじゃ」


「顔だけ出してきます。所長には、少し下で話すと伝えれば大丈夫です」


 藤崎は、そう言って階段を上がっていった。


 紬は踊り場に残された。


 父を恩人として覚えている人。


 外にも。


 中にも。


 さっき思った言葉が、まだ胸に残っている。


 朝倉製作所の人たちが父を恩人として覚えているのは、まだ分かる。会社を立て直す手伝いをしたのなら、そう思う人もいるだろう。


 でも、事務所の中で働いていた人が、父を「返しきれない」と言う。


 父は、その人に何をしたのだろう。


 数分ほどして、藤崎が戻ってきた。


「すみません。お待たせしました」


「いえ」


「行きましょう」


    *


 2人で階段を下りる。


 途中、藤崎は紬より半歩だけ後ろを歩いた。急かさない距離だった。階段の幅が狭いからなのか、それとも紬に気を遣っているのかは分からなかった。


 1階の喫茶店は、外から見るよりも奥行きがあった。


 扉を開けると、鈴が小さく鳴る。


 中は薄暗く、木のテーブルと赤茶色の椅子が並んでいた。壁には古い時計と、港の写真が飾られている。カウンターの奥では、白髪の店主が新聞を畳んで顔を上げた。


「いらっしゃい」


「2人です」


 藤崎が言うと、店主は奥の席を指した。


「好きなところへ」


 窓際の席に向かい合って座った。


 窓の外には、さっきまでの雨を吸った歩道が見える。傘を閉じた人たちが、少し急ぎ足で通り過ぎていく。花屋の軒先から、雨粒がまだぽつぽつ落ちていた。


「コーヒーでいいですか」


「はい」


 藤崎が店主に注文してから、紬の方を見た。


「急にすみません。驚かせましたよね」


「少し」


 正直に言うと、藤崎は小さく笑った。


「高瀬先生の娘さんに会うのは、初めてですから。私も、少し緊張しています」


「父のことを、先生って呼ぶんですね」


「はい」


吉岡よしおかさんも、そうでした」


「でしょうね」


 藤崎は、懐かしそうに目を細めた。


「事務所では、皆そう呼んでいました。所長と呼ぶ人もいましたけど、私にとっては、今でも先生です」


 今でも。


 その言葉の中に、20年という時間が沈んでいた。


「父は、藤崎さんにとって、どんな人だったんですか」


 聞いてから、少し早すぎたかもしれないと思った。


 けれど、藤崎は戸惑わなかった。


 ただ、すぐには答えなかった。


 店主がコーヒーを運んできた。白いカップではなく、少し厚みのある茶色いカップだった。湯気がゆっくり立ち上がる。砂糖とミルクの小さな容器が、テーブルの端に置かれた。


 藤崎はカップに手を添えた。


「優しい人でした、とは言えません」


 最初に出た言葉は、それだった。


 紬はカップに伸ばしかけた手を止めた。


「優しくなかったんですか」


「厳しかったです」


 藤崎は、少し苦笑した。


「かなり」


 その言い方に、ほんの少しだけ若い頃の藤崎が見えた気がした。


「私は、入ったばかりの頃、本当に使えない若手でした」


「そうなんですか」


「ええ。今でも思い出すと、少し胃が痛くなります」


 藤崎はコーヒーに口をつけた。


「大学を出て、資格の勉強をしながら事務所に入って。自分では、それなりにできるつもりでいました。数字にも強いと思っていたし、書類も読めると思っていた。でも、高瀬先生の前では、全部見抜かれました」


「見抜かれた?」


「分かったふりです」


 紬は黙って聞いた。


「先生は、数字を読むのが速い人でした。資料を一目見ただけで、どこに無理があるかを見つける。私が作った表に、計算上のミスがなくても、すぐに言われるんです」


「何をですか」


「『この数字は合っている。でも、この会社の息づかいが入っていない』と」


 会社の息づかい。


 不思議な言葉だった。


「どういう意味なんですか」


「当時の私は、分かりませんでした」


 藤崎は少しだけ肩をすくめた。


「売上、粗利、借入、返済予定。表の数字は正しい。でも、その会社が今どういう状態で、社長が何に怯えていて、従業員が何を諦めかけているのか。そういうものを見ないまま、私は数字だけを並べていたんです」


 数字だけを見ると、人は簡単に嘘をつく。


 吉岡の言葉が蘇る。


「父は、それを教えたんですか」


「教えたというより、逃がしてくれなかったんです」


「逃がしてくれなかった」


「はい」


 藤崎は、カップを置いた。


「『分かりません』で終わるな。『数字上はこうです』で逃げるな。社長が本当に困っていることを見ろ。会社の数字が崩れる時、その向こうでは、必ず誰かの生活が先に崩れている。そう言われました」


 紬は、窓の外に目をやった。


 雨上がりの歩道を、制服姿の高校生が通り過ぎていく。肩を寄せ合って笑っている。彼女たちにも家があり、家族があり、夕飯を待つ人がいる。


 会社の数字が崩れる時、その向こうでは、誰かの生活が崩れている。


 父は、それを知っていた。


 でも、その父は、家にいる母を何度も待たせた。


 その矛盾が、胸の中で小さく擦れた。


「父は、藤崎さんに優しかったわけではないんですね」


「はい」


 藤崎は、はっきり頷いた。


「仕事では、甘やかされた記憶はありません。資料の作り方、言葉の選び方、顧問先への説明、銀行に出す数字。何度も突き返されました」


「怖かったですか」


「怖かったですよ」


 藤崎は笑った。


 その笑いは、怖かった人を恨む笑いではなかった。


「ただ、不思議な人でした。事務所の中では容赦なく叱る。でも、顧問先の前で若い私を潰すようなことは、一度もしなかった」


「潰す?」


「私のミスを、顧問先の前で責めることはなかったということです。外では、私を守る。戻ってから、きっちり叱る」


「父が」


「ええ」


 藤崎は、少しだけ目を伏せた。


「一度、大きなミスをしたことがあります。銀行向けの資料で、返済計画の前提を読み違えた。数字の計算自体は合っていたんですが、会社の実態と合っていなかった」


「どうなったんですか」


「先生が、会議の場で全部引き取りました」


 藤崎の指が、カップの縁をなぞった。


「その場では、私の作った資料を使わず、手元のメモだけで説明を組み直したんです。銀行の担当者も、社長も、誰も私のミスだとは気づかなかったと思います」


「それで、叱られたんですか」


「事務所に戻ってから、ものすごく叱られました」


 紬は思わず少し笑った。


 藤崎も笑った。


「『銀行に頭を下げるのは私でいい。でも、会社を潰す数字を作るな』と言われました」


 会社を潰す数字。


 その言葉は、父らしいのだろうか。


 紬にはまだ分からない。


「私は、その時、初めて分かったんです」


「何をですか」


「数字は、人を助けることもある。でも、間違えれば人を追い詰めることもある」


 藤崎は、窓の外を見た。


「先生は、それを知っていた人でした」


 紬はバッグの中の通帳を思った。


 100万円が20年分。


 それも、数字だった。


 でも、ただの数字ではなかった。


「父は、朝倉製作所のことを藤崎さんに話していましたか」


 藤崎の表情が、少しだけ変わった。


 驚きではない。


 その名前が出ることを、どこかで分かっていたような顔だった。


「少しだけ」


「少しだけ?」


「私が入った時には、朝倉製作所の件は、かなり進んでいました。私は最初から関わっていたわけではありません。けれど、資料整理や一部の数字の確認は手伝いました」


「父は、その会社を助けたんですよね」


「助けた、という言い方は、先生なら嫌がると思います」


 吉岡と同じようなことを言った。


「どう言うと思いますか」


「立て直しの手伝いをした、と言うと思います。最後に動くのは、その会社の人たちだ、と」


 紬は、父が朝倉製作所の先代社長に言ったという言葉を思い出した。


 会社を立て直し、家族を守りたいのなら、この先はすべて私の指示通りに動いてください。


「厳しい人だったんですね」


「はい」


「でも、逃げなかった」


 藤崎は、そこで紬を見た。


「所長から聞きましたか」


「少し」


「そうですか」


 藤崎は静かに頷いた。


「高瀬先生は、逃げない人でした。ただ、それは美徳だけではありません」


 美徳だけではない。


 その言い方に、紬は少し緊張した。


「どういう意味ですか」


「逃げない人は、自分の体からも逃げないんです」


「体?」


「疲れていることを認めない。限界が来ていることを認めない。自分が抱えすぎていることを認めない」


 胸の奥が、少し冷えた。


「それは、父の事故と関係がありますか」


 聞いてから、喉が乾いた。


 藤崎は、すぐに答えなかった。


 コーヒーの湯気は、もう薄くなっている。


「事故の原因を、誰かひとりのせいにすることはできません」


 藤崎は、ゆっくり言った。


「ただ、先生は亡くなる前、ずっと無理をしていました」


 紬は目を伏せた。


 交通事故。


 居眠り運転。


 20年前に聞いた大人たちの言葉。


 紬はその意味を、子どもの頃には分かっていなかった。ただ、父が急に帰ってこなくなったことだけが、現実だった。


「朝倉製作所のせいですか」


 口にした瞬間、自分が誰かを責めようとしていることに気づいた。


 藤崎は、静かに首を振った。


「そう決めてしまうと、たぶん何も見えなくなります」


 紬は唇を噛んだ。


「先生は、朝倉製作所だけを見ていたわけではありません。他にも顧問先はありました。事務所もありました。家庭もあった。ご自身の性格もあった。責任を手放せない人でした」


「じゃあ、誰のせいでもない」


「誰かのせいにできるほど、簡単ではないと思います」


 その言葉は、優しくなかった。


 でも、乱暴でもなかった。


「私は、父をどう思えばいいのか分からなくなっています」


 紬は、小さく言った。


「家では、あまりいない人でした。母はずっと待っていたし、私は父のことをあまり覚えていない。でも、外には父を恩人だと言う人がいる。藤崎さんも、そう言う」


「はい」


「それを聞くたびに、嬉しいのか、腹が立つのか、分からなくなります」


 藤崎は、紬から目を逸らさなかった。


「どちらもあっていいと思います」


「どちらも」


「はい。恩人だったことと、家族を寂しくさせたことは、どちらか片方だけにはできません」


 紬は、カップの中の黒い液体を見た。


 コーヒーの表面に、窓の光が小さく揺れている。


「先生は、正しい人だったわけではありません」


 藤崎は言った。


「でも、間違えたあとに、なかったことにする人でもありませんでした」


 その言葉が、静かに胸に入ってきた。


 正しい人ではない。


 でも、なかったことにしない人。


「藤崎さんは、父に何を返したかったんですか」


 紬は聞いた。


 藤崎は少しだけ驚いた顔をした。


「返したかった、ですか」


「さっき、返しきれないほどお世話になった、と言っていました」


「ああ」


 藤崎は、少し照れたように笑った。


「そうですね。何を返したかったんでしょうね」


 窓の外で、花屋の店員が鉢植えを少しずつ外に戻していた。雨が上がったからだろう。濡れた葉が、光を受けて小さく輝いている。


「私は、先生に仕事を教わっただけではありません」


 藤崎は言った。


「仕事から逃げないことを教わりました。数字の向こうに人がいることも。けれど同時に、抱えすぎれば、守りたいものまで傷つけることも、先生から教わった気がします」


「父の死から、ですか」


「はい」


 藤崎は頷いた。


「だから私は、先生と同じようにはなりたくなかった」


 その言葉は、少し意外だった。


「尊敬しているのに?」


「尊敬しているからです」


 藤崎は、ゆっくりカップを持ち上げた。


「先生が残したものは、真似をすることではなく、考え続けることでした。どこまで踏み込むのか。どこで線を引くのか。誰を守ろうとして、誰を待たせているのか」


 誰を待たせているのか。


 母の顔が浮かんだ。


 冷めた夕飯の前で、玄関の音を待っていた母。


「藤崎さんは、ご家族がいるんですよね」


 紬は聞いた。


 藤崎は少しだけ目を丸くしたあと、柔らかく笑った。


「います。妻と、高校生の娘が1人」


「娘さん」


「ええ。最近は、あまり口をきいてくれません」


 その言い方に、少しだけ生活の匂いがした。


「でも、帰るようにはしています」


「帰るように」


「はい。仕事を途中で置いて帰ることも、覚えました」


 藤崎は苦笑した。


「若い頃は、それができませんでした。先生みたいに、全部抱えた方が格好いいと思っていたんです」


「今は、違うんですか」


「妻に怒られました」


 紬は少し笑った。


「何て?」


「『あなたが帰ってこないことで守れる家庭なんて、うちにはない』と」


 その言葉に、胸の奥が少しだけほどけた。


 厳しいけれど、温かい言葉だった。


「いい奥さんですね」


「はい。怖いですが」


 藤崎は真面目な顔で言った。


 紬はまた少し笑った。


 父の話をしているのに、少しだけ呼吸が楽になった。


 藤崎は、父を尊敬している。


 でも、父と同じにはならなかった。


 父から受け取ったものを、そのままではなく、自分の家族の中で形を変えている。


 それが、なんだか不思議だった。


「高瀬さん」


「はい」


「通帳を見せていただいてもいいですか」


 紬は一瞬迷った。


 でも、バッグから通帳を取り出した。


 株式会社高瀬経営会計事務所。


 藤崎は、その表紙を見ると、ほんの少し懐かしそうな顔をした。


「この名前を見るのは、久しぶりです」


「ご存じなんですね」


「もちろんです」


 藤崎は通帳を開いた。


 ページをめくる手つきは丁寧だった。紙を傷めないように、端を少しだけ持つ。


 100万円。


 アサクラ シズエ。


 また100万円。


 また同じ名前。


 藤崎の眉が、かすかに動いた。


「綺麗すぎますね」


「綺麗?」


「はい」


 藤崎は、通帳から目を離さなかった。


「金額も、時期も、続き方も。偶然や気まぐれで送っているお金には見えません」


「どういうことですか」


「税や会計を知っている人間なら、考える金額です」


「100万円が?」


「はい。多すぎず、少なすぎず、毎年続けるには意味が残る額です」


 紬は通帳を見た。


 何度も見た100万円が、また違う顔を持った気がした。


「これを送っている人は、税に詳しいんですか」


「本人か、周りに詳しい人がいるのかもしれません」


「父が、そう指示した可能性はありますか」


 自分で聞いて、心臓が少し強く鳴った。


 藤崎は、すぐには否定しなかった。


「分かりません」


「分からない」


「先生は、亡くなっています。亡くなったあとに始まった送金なら、先生本人が直接指示したとは考えにくい」


「でも」


「ただ」


 藤崎は、通帳を閉じた。


「先生が生前に、何か言葉を残していた可能性はあります」


 言葉。


 父が、誰かに残した言葉。


「朝倉静江さんに?」


 藤崎は、紬を見た。


「その名前を、どこで」


「通帳にありました。母も、その名前に反応しました」


「そうですか」


 藤崎は、深くは聞かなかった。


 けれど、その目は、知らない名前を聞いた時のものではなかった。


「藤崎さんも、知っているんですね」


「名前だけなら」


「名前だけ?」


「当時の私は、朝倉製作所の件をすべて知っていたわけではありません。ただ、その名前が重要な場所にあることは分かります」


「重要な場所」


「はい」


 藤崎は、通帳を紬に返した。


「所長が、順番があると言ったでしょう」


「はい」


「たぶん、その通りです」


 紬は通帳をバッグに戻した。


 順番。


 その言葉に、少しだけ苛立ちを覚える。


 でも、藤崎の話を聞いたあとでは、焦って全部を開けることが、かえって何かを壊す気もしていた。


「高瀬さん」


「はい」


「お父さまのことを知るのは、楽なことではないと思います」


「もう、少し分かってきました」


「それでも、知ろうとしているのは、いいことだと思います」


「いいこと、ですか」


「はい」


 藤崎は、やわらかく笑った。


「先生は、見ないふりが下手な人でしたから。娘さんも、そうなのかもしれません」


 吉岡にも、同じようなことを言われた。


 父に似ている。


 それが嬉しいのかどうかは、まだ分からない。


    *


 喫茶店を出る頃には、雨は完全に上がっていた。


 歩道の端に小さな水たまりが残っている。空はまだ曇っていたけれど、雲の切れ間から薄い光が差していた。


 藤崎は、事務所へ戻る前に、軽く頭を下げた。


「今日は、ありがとうございました」


「こちらこそ」


「また、話せることがあれば」


「聞いてもいいんですか」


「もちろんです」


 藤崎は少し笑った。


「高瀬先生の話を、誰かにできる日が来るとは思っていませんでしたから」


 その言葉は、静かに胸に残った。


 父を語りたい人がいる。


 父を恩人として覚えている人がいる。


 父から受け取ったものを、今も自分の生活の中で考え続けている人がいる。


 父のことをまだ何も知らないと思っていた。


 けれど、父を知っている人たちに会うたびに、父の輪郭は少しずつ増えていく。


 その輪郭は、優しいだけではない。


 正しいだけでもない。


 家族を寂しくさせ、誰かを救い、誰かを鍛え、誰かに考え続ける宿題を残した人。


 紬は駅へ向かって歩き出した。


 バッグの中には、通帳がある。


 100万円が20年分。


 それは、ただのお金ではなかった。


 まだ意味の分からない返事だった。


 誰かが、父の残したものに向けて、20年続けてきた返事。


 紬はその返事を、まだ読みきれずにいた。

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