名探偵クロムZERO
@eij7654
第1話 雨の高架下
雨だった。
深夜0時48分。
高速道路の高架下。
街灯は半分死んでいる。
水たまりに、赤色灯だけが滲んでいた。
「またか……」
若い刑事――藤原誠司は、濡れた煙草を握り潰した。
規制線の向こう。
男の死体。
会社員。
四十代。
死因は転落死。
……のはずだった。
鑑識が言う。
「上から落ちたみたいですね」
藤原は無言で死体を見る。
違和感。
目。
死んだ男の目だけが、不自然だった。
“何か”を見ている。
しかも被害者全員ここ最近の“事故死”は、同じ顔をしていた。
恐怖じゃない。
絶望でもない。
まるで。
「気づいてしまった」みたいな目。
上司が近づく。
「藤原」
「また考え込みか」
藤原。
「……事故には見えません」
上司はため息。
「証拠は?」
沈黙。
ない。
だから片付けられる。
事故。
自殺。
処理終了。
だが藤原の中で、“何か”が引っかかっていた。
その時若い鑑識が声を上げる。
「警部補!」
「またあります!」
ビニール袋。
その中。
銀色の栞。
藤原の目が止まる。
ここ三件。
全部の現場に落ちていた。
銀色。
金属製。
細い刻印。
『それは事故じゃない』
雨音だけが響く。
藤原は栞を握る。
冷たい。
まるで。
誰かが、現場を見ていたみたいだった。
翌朝。
警視庁。
藤原は過去資料を漁っていた。
事故死。
転落。
飛び込み。
感電死。
一見バラバラ。
だが、共通点がある。
全員死ぬ直前に、“誰か”へ電話している。
だが記録は残っていない。
さらに。
全員が最後に見ていた方向。
“同じ”
藤原が地図を広げる。
線を引く。
事故現場。
視線方向。
その瞬間…
一本の線になる。
「……高架下?」
古い都市再開発区域。
今は閉鎖された地下通路。
その時。
PC画面が一瞬だけノイズを走らせる。
新しいメール。
差出人不明。
件名:
『遅い』
藤原の目が細くなる。
メールを開く。
添付画像。
地下通路の写真。
その中央。
赤い丸。
そして。
一文。
『次は今夜、3時17分』
空気が止まる。
いたずらじゃない。
直感。
“誰か”が知っている。
夜。
閉鎖地下通路。
藤原は単独で来ていた。
懐中電灯。
湿ったコンクリート。
古い水の匂い。
時計。
3時16分。
静寂。
その時。
奥。
足音。
誰かいる。
藤原が銃を抜く。
「警察だ!」
返事なし。
そして。
突然。
上。
悲鳴。
藤原が走る。
通路を抜ける。
地上。
高架下。
男が落ちてくる。
鈍い音。
血。
藤原の呼吸が止まる。
また間に合わなかった。
だが。
その瞬間。
背後。
声。
「違う」
藤原が振り返る。
暗い路地。
フード姿。
若い男。
顔は見えない。
だが。
その目だけが異常に鋭かった。
「落ちたんじゃない」
一歩前へ出る。
「“落とされた”」
藤原。
「お前は誰だ」
沈黙。
雨音。
若い男は、少しだけ笑った。
「まだ、名無しだよ」
次の瞬間。
パトカーのライト。
一瞬だけ視界が白くなる。
そして男は消えていた。
残されていたのは。
銀色の栞だけ。
裏面。
新しい文字。
『違和感を見逃すな』
雨は、まだ止まなかった。
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