エルフの元勇者は杖を持った。〜80年間聖剣振ってたら縦に折れちゃった〜
冬乃ひなぎく
第1話 勇者、元勇者になる
初めまして、『冬乃ひなぎく』です!
息抜きにパッと思いついたファンタジーを書いてみました。不定期更新ですが、週に2、3回は更新しようかと思います!
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「聖剣折れちゃったんで、勇者なんてやめて、魔法使いにでも転職しますね。」
大陸歴3001年、他種族国家のボレアス共和国にて、とある男の一言に王城の謁見室が静まり返った。
「ちなみに、先々代が魔法契約書を書いているはずです。もし契約を破棄した場合、主権を民に譲るとか仰ってた気もします。」
この二言目に、その場は凍りついた。
一国の王にこのような態度を取れるのは、300年という長い時を生き、その内の80年を共和国の勇者として戦い抜いてきた男。
彼の名はエルフ族の『ルノ・リヴェンダ』。
ステンドガラスから透ける光は、透明度の高い彼の白髪を照らし、深緑の瞳は、この国の未来を見透かしているのではないか――
その場にいる国の要衝全員に、そう思わせる程の実績を彼は積み上げてきたのだ。
―■―
事の始まりは80年前、小さなエルフの集落で暮らしていた彼は、ボレアス共和国の都心【アストラ】まで出稼ぎに来ていた。
当時、弱小国家であったボレアス共和国に誇れるものは、資源がそこそこ豊かな国土と、代々引き継がれてきた国宝のみ。
その国宝こそ、大陸に7つしかない七大英傑武器の一角である【聖剣ボレアス】。その名の通り、この国の起源でもある。
七大英傑武器とは、3000年前の人類が神から賜った贈り物であり、武器が使用者を選ぶことは辺境の村の子供ですら知っている常識。
そして、選ばれた者は【
そして、ボレアス共和国もまた、新たな勇者を求めていた。
来る魔族の侵攻と、王族の可愛い我が身を守ってくれる英雄を。
普段は国庫にて大切に保管されていたが、王は都心アストラの最も大きな広場に聖剣を設置し、その剣が鞘から解き放たれるその時を待っていた。
スゥ―――
シキィィィィィンッ!!
「あ、え、抜けちゃった……」
そう、拍子抜けするほどあっさりと抜いちゃったのがルノだったのだ。
右も左も分からない都心と、上も下も分からず連れてこられた王城。
エルフというだけで差別的な目を向けられるこのご時世だが、それはボレアス王も例外ではなかった。
「この神聖な謁見室に貴様のような下劣な種族が足を踏み入れるとはな。聖剣に選ばれていなければ今頃、頭と胴体が分かたれておっただろうな!」
豪快に笑う王に釣られ、長いものに巻かれる有象無象達も、ルノを見下し嘲笑う。
神の奇跡ともいえる聖剣が選んだ勇者は、顔を上げることすら許されなかった。
本人は、「このキラキラしたおっさんは誰なんだろう?」としか思っていないようだが……
「まぁよい。貴様には勇者としてこの国に尽くしてもらう。我の命令に従い、手足となって働くのだ。」
「……」
「ふんっ、やはり我の威光の前では、下劣な種族ほど萎縮してしまうのだなぁ!」
ルノは、萎縮している訳でも、絶望しているわけでもない。
ただ単に、返事をするタイミングが分からなかっただけだ。
もちろん、このおっさんが何を言っているのか、半分以上理解できていなかったのもある。
「無駄に長生きする貴様らのことだ。何十年"無能勇者"と呼ばれ続けるのか、今からたのしみだのぅ〜」
大陸3000年の歴史の中で、エルフのような長命種が英傑武器に選ばれたのは、これで2度目。
永劫に近い時を生きるエルフにとって、この束縛から解放される方法は、"死"以外に無い。
「そうだ!道端の小枝しか持ったことのない貴様に、我が機会を与えてやろう!」
王は何かを思いついたらしい。
切りそろえた髭を摘み、無駄に白い歯を見せながらこう言い切ったのだ。
「神の創ったこの至宝が折れ時、貴様を勇者の任から解放してやろう!」
その瞬間、爆発的な拍手と笑い声がこの謁見室を埋めつくした。
英傑武器が壊れないのは、誰もが知っている常識だ。
紛失したとあらば、次なる場所へと顕現し、どれだけの血に触れようが、決して汚れることはなかった。
どんな魔術を用いたら、こんな武器が生まれるのか研究した国もあったが、使われている素材すら解明することはできず、無駄足に終わったという話も有名だ。
不滅、不壊、不朽、故に英傑武器として3000年もの歳月が経っても、一つも欠けることなく受け継がれてきたのだろう。
「ぶはははっ!なんなら契約書でも書いてやろうぞ!この契約を破れば王族は権威を失い、主権を民に譲る〜となぁ!」
この日最高の笑いが更新された。
法務官はその場に笑い転げ、肥えた貴族連中は過呼吸になり、王は魔法契約書に震える手で署名し、特殊な墨で捺印した。
それが80年後、自身の可愛らしい孫が、同じく震える手で履行するとは思わなかったのだろう。
その日から、ルノの鍛錬は始まった。
良くも悪くも、頭の硬いルノは、朝から晩まで剣の稽古に励み、その手が血で滲むまで剣を振るい続けた。
翌日、何週間、何ヶ月、何年……初めて魔物を討伐した日、魔族が周辺の森に現れた日、大規模な軍勢が大陸に侵攻したきた日。
彼は毎日欠かさず剣を振り続けた。理由はお給料を貰っていたから、ただそれだけ。
とある街を魔物の群れから守り抜いた時、彼は街の民からこう聞かれた。
『どうしてそこまで努力するのか。』
無論、彼が長命種であり、王から蔑まれているのを承知の上でこの問いを投げかけたのだ。
『折れるか折られるか、それだけです。』
自分自身、聖剣、国王、何が折れるのか、お互いの認識に齟齬があったのは間違いないが、街の民は彼を本物の勇者として称えた。
救った土地の先々で祭り上げられ、彼は
途中から面倒くさくなった彼は、それっぽいことを言って誤魔化したが、誰かの作った【勇者リヴェンダの御言集】という書物には、一語一句、その真意が綴られている。
―■―
そして、勇者になって75年後、その代の七大英傑によって、魔王は討ち取られた。
たった7人で魔大陸へ乗り込み、魔王城を爆散、四天王と魔王を1人も欠けることなく壊滅するという偉業を成し遂げたのだ。
まさに神の遣わした使徒達、そう呼ばれるほどの完勝を魅せ、ルノ達は大陸に平穏をもたらしたのだった。
5年後の冬、いつも通り更地にした山で素振りをしていた時のことだった。
パキィンッ
「あ……」
聖剣が縦に折れた。
洗濯板にしたり、薪割りをしたり、鉱石を掘ったり、畑を耕したり……それでも錆び知らずで欠けることもなかったあの聖剣が、剣先から鍔にかけて真っ二つに。
"なぜ割れたのか"その理由は分からないが、ルノは何事も無かったかのように、聖剣を鞘へ収め、王城へ歩き出した。
―■―
『勇者は背中で語る。』
どこぞの勇者エルフがどこかの街で言い放った
本人は記憶の片隅にすら無いだろうが、謁見室にいる彼以外はその言葉を鵜呑みにしてしまった。
床に置かれた、物の見事に折れている聖剣と、何も言わずに去っていく彼の背中は、『使命は果たした』と語るようだったからだ。
彼が去った後の謁見室は言うまでもない。
まさに波乱と混乱の渦巻く大宴会。
国王は沈黙し、宰相は絶望、彼のネームバリューだけで成り立っていた貴族連中は、彼を反逆罪にすべきと訴えたが、法務大臣はそれを宥める。
剣ひとつで山を崩す
故に、ボレアス共和国は小細工に頭を使うしか、選択肢が無かった……
―■―
王城を出たルノは、都心アストラの武具屋へ向かっていた。
「ん〜とりあえず、【変幻の指輪】で見た目を変えないとだね。」
【変幻の指輪】は文字通り、魔力を用いて見た目を帰る魔導具だ。
迷宮の出土品で、国外へ遠征に行く時はよく使っていた代物。
国外に行くのにわざわざ変装する必要があるのは、反エルフを謳う教団の目を欺くためだったりするが……果たして、いつでも壊滅できる集団のことを気にする必要があるのだろうか。
このように、色んな意味でエルフの勇者は有名だったため、尖った耳を見せるだけで厄介払いされてしまう可能性があるのだ。
「もういっそ性別ごと変えちゃう?」
ボサボサの伸びきった白髪や引き締まった肉体も勇者とすぐにバレる可能性がある。
であれば性別ごと変えてしまう……いや、魔法使いっぽい見た目に変えてしまうのがいいだろう。
「髪はこんな感じで、耳は丸くして……」
人気のない裏路地で、あれでも無いこれでも無いと言いながら、指輪にイメージを描き記す。
シュッ――
悩みに悩んだ末、三つ編みのおさげに、若干貧相な体つきの女性になった。
髪色は白いままだが、耳は人族の様に丸くなり、瞳の色はコバルトブルーに。
なんとなく、眼鏡とローブが似合いそう、というイメージでこの見た目に決めたようだ。
「まぁ、眼鏡とローブどころか、杖もないんだけどね〜。」
形から入るタイプのルノだが、彼は何故魔法使いになりたがっているのだろうか。
ただの騎士ではダメなのだろうか。
ここまでの経歴を聞いた者なら、そう疑問に思うかもしれない。
しかし、答えは非常に単純。
彼からすれば80年前のやり直しともいえる。
そう、彼は高給取りである魔法使いになるために、エルフの森から出てきたのだ。
そしてルノは、街に溢れる【エルフの勇者】、【勇者リヴェンダ】という文字を横目に、生まれて初めての武具屋へ入るのだった。
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