第21話

第21話

「引き渡し」



その夜、

空気が最初から違った。


ユウは煙草をくわえながら、

ずっと外を見ている。


路地の奥。


王国兵。


数が多い。


しかも今日は、

監視の距離じゃない。


ガロンが低く呟く。


「……来るな」


ヴェラは何も言わない。


ただ、

グラスを持つ手だけ少し固かった。


リアも気付いている。


顔が険しい。


レオは完全に落ち着かない。


「いや、

これマジでヤバいですよね……?」


誰も返さなかった。


その時。


カラン。


扉が開く。


鎧の音。


入ってきたのは、

王国兵達だった。


五人。


そして先頭には、

隊長。


店内の空気が一気に冷える。


リアが立ち上がる。


「……隊長」


隊長はリアを見た。


それから、

ヴェラへ視線を向ける。


「王国命令だ」


低い声だった。


「その魔族を引き渡せ」


沈黙。


レオが息を飲む。


ヴェラは静かに目を閉じた。


少しだけ笑う。


「……まぁ、

そうなるわよね」


立ち上がる。


でも——


ガタン。


ユウがグラスを置いた。


大きくない音。


でも、

店内全員が止まる。


ユウは煙草を灰皿へ押し付けた。


「店ん中で客連れてくな」


兵士達の空気が変わる。


隊長はユウを見る。


「相手は魔族だぞ」


ユウは短く返す。


「ここじゃ関係ない」


兵士の一人が剣へ手をかける。


その瞬間。


ガロンが立ち上がった。


重い椅子の音。


「おい」


低い声。


「店内喧嘩禁止だろ」


空気が張り詰める。


リアも前へ出た。


「やめてください」


隊長が睨む。


「リア。

下がれ」


「嫌です」


兵士達がざわつく。


リアは真っ直ぐ隊長を見る。


「この店で剣を抜かないでください」


数秒。


沈黙。


隊長は低く言う。


「命令だぞ」


リアも引かない。


「だからです」


店内の空気が痛いほど張る。


レオは完全に固まっていた。


ヴェラは何も言えない。


隊長はゆっくり周囲を見る。


ガロン。


ユウ。


リア。


そして壁の文字。


・喧嘩禁止

・種族差別禁止

・ツケは一回まで


小さく舌打ちした。


「……お前ら、

本当に馬鹿だな」


ユウは少し笑う。


「よく言われる」


隊長はしばらく黙った後、

リアを見る。


そして静かに言った。


「リア。

お前が責任持て」


リアの顔が変わる。


兵士達もざわつく。


隊長は続けた。


「その魔族、

お前の監視対象にする」


「隊長——」


「次問題起きたら、

店ごと潰す」


静かな声だった。


冗談じゃない。


本気だ。


ヴェラは少し俯く。


リアも、

すぐ返事ができなかった。


でも——


「……分かりました」


隊長は小さく息を吐く。


「今日は引く」


ガロンが長く息を吐いた。


レオはその場に座り込む。


「寿命縮んだ……」


隊長は帰る前、

ユウを見る。


「次はないと思え」


ユウは煙草に火をつけながら返した。


「そん時考える」


カラン。


扉が閉まる。


誰もしばらく喋らなかった。


レオが乾いた声で言う。


「……どうするんですか、これ」


誰も答えない。


ヴェラは俯いたまま、

グラスを見ている。


リアも、

黙っていた。


重い沈黙の中。


ユウだけが、

いつも通り煙草に火をつける。


それから短く言った。


「……酒、

まずなるなぁ」


誰も笑わなかった。


外ではまだ、

雨が降っていた。

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