第17話
第17話
「停戦前夜」
⸻
その日は、
街の空気が最初からおかしかった。
王国兵の数が多い。
冒険者達も落ち着かない。
店の外を、
何度も馬が駆けていく。
深夜。
NO SIDEにも、
その空気は流れ込んでいた。
「北で動いたらしい」
ガロンが低い声で言う。
リアが顔を上げた。
「……戦線?」
ガロンは頷く。
「魔王軍が砦落としたって噂だ」
ヴェラの手が少し止まる。
レオが空気を読んで、
珍しく黙っていた。
店内が静かになる。
戦争の話は、
この店では避けられることが多い。
でも今日は違った。
遠かったはずの火種が、
少しずつ近付いている。
リアはグラスを見る。
「また始まるのか……」
誰に言ったのか分からない声だった。
その時。
カラン。
扉が開く。
全員の視線が向く。
入ってきたのは、
血だらけの男だった。
王国兵。
肩を貸されている。
もう一人は、
獣人の傭兵だった。
店内が止まる。
普通ならありえない組み合わせ。
獣人の男が言う。
「悪い、
少し休ませろ」
ユウは一瞬だけ二人を見る。
血。
泥。
疲れ切った顔。
そして、
互いに無言なこと。
ユウは短く答えた。
「座れ」
王国兵は苦しそうに椅子へ座る。
リアがすぐ立ち上がった。
「怪我見せろ」
兵士は顔を上げる。
「……リア様」
かなり若い。
まだ新兵に近い年齢だった。
肩が深く斬られている。
リアが顔をしかめる。
「これ応急処置しかされてないじゃないか」
獣人の男が低い声で言う。
「戦場じゃ暇なくてな」
ヴェラが小さく目を細める。
「……助けたの?」
獣人は酒を受け取りながら答えた。
「目の前で死なれると寝覚め悪い」
リアが止血しながら聞く。
「敵だろ」
獣人は少し黙った。
それから、
酒を一口飲む。
「戦場じゃな」
静かな声だった。
店内が静まる。
レオですら、
何も言わない。
ユウは煙草に火をつける。
NO SIDEの外では、
また戦争が始まろうとしている。
でも、
この店の中だけは違った。
敵も味方もなく、
ただ疲れた奴らが酒を飲んでいる。
それだけだった。
リアは治療を終えると、
小さく息を吐いた。
獣人の男が言う。
「借り一つだな」
リアは少し考える。
それから、
静かに返した。
「……店の外なら返してない」
獣人は笑った。
「だろうな」
少しだけ、
店の空気が緩む。
でも誰も、
外の戦争を忘れてはいなかった。
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