第13話 空間バッグは最強です
「では、本当に思う存分させて頂いてよろしいのですね?」
私は5人プラス無表情なカレンが囲む机の前で、最終確認をした。
「うん、大丈夫だよ。まず何からするんだい?」
レグスタインは、余裕そうな表情で私をニコニコと見つめた。
「そうですね。効果付与は素材をすべてつけ終わってからにしたいんですよね。まず、弓からいきましょうか?」
壁にかかっている弓を、軽く指で浮かばせる。
「む、無詠唱!」
グレンが、尻餅をつきそうな勢いで目を見開く。
「詠唱する方が更に軽く運べるんですけど、弓ぐらいなら元がそこまで重くないので。お肉の時は、口の中で、舌だけ動かして浮かばせたんです。詠唱すると、耳がいい魔物や足が速い魔物にやられてしまいますからね。」
「どうやってやるの!」
グレンは、近づいて思わず私の口元をじっと見つめようとする。それをレグスタインが、首元から押さえ込む。
「近すぎる!接近禁止令を出すぞ」
「だって!レグ!無詠唱だよ!無詠唱!!」
うーん、そこまで無詠唱に感動されるとは......
詠唱してる間に襲われて死んじゃうとか思わないのかしら?
私は、そこまで勉強熱心なグレンがなぜ無詠唱で魔法を使う発想をしないのかがわからなくて首を傾げる。
魔女の技術が廃れたのは、魔女がみんな排除されたからだわ
でも、魔法使いの男性はどうしたの?
魔法使いは減ったとはいえ、途絶えてないのよ。
子孫や弟子に伝承しようとはしなかったのだろうか?
「魔力がある人なら、とりあえず弓ぐらいの軽さなら魔力で運べるようななります。糸のように魔力を伸ばしたらいいですよ。指から出す魔力ぐらいが丁度いいかな?で、欲しいもののところまで伸ばす。」
私はわざと魔力に光をまとわせて、魔力の糸がどう伸びたのかをグレンや他のメンバーに見せる。
「うわああああああああぁぁぁ」
今度は5人みんなでのけぞる。
みんな、大丈夫かしら?
私を守ってくれると言ったはずだけど、何もせず魔力を光つけて放出しただけで腰を抜かされてしまった。
「あの......大丈夫...ですか?」
一応遠慮がちに聞いてみよう。
まだ何もしていない。
よって、まだ驚かれることもしていないはずなのだ。
「ち、ちょっと驚いただけだ!大丈夫」
ヘンケルの声が上ずるが、大丈夫といわれたのだもの。
続けてみよう。
「で、この魔力の糸を手繰り寄せるようにします」
私は、するすると糸のように伸びた自分の魔力に矢を巻きつけて、ひょいっと指を動かした。すると、矢が猛スピードで机の上に着地する。
よし!出来たわ。
私はみんなに笑顔で伝えた。
「こんな感じです。敵が襲ってきた時に、必ず武器が手元にあるとは限りませんし便利ですよ?グレン様もどうですか?」
私なりに丁寧に説明したと思う。
だがグレンは、
「............」
あらっ?グレンは、机に置かれた矢から目が離せず無言だ。
「は.....ははっ...グレンにはいい指導になったようだね」
こほんと咳払いをして、レグスタインも笑うが引き攣っているような?
「真似できればいい指導だったんだけどねぇ」
バインが苦笑いして、グレンを見る。
真似できれば?
真似しなくても、すぐできるんじゃないかしら?
「難しいですか?」
グレンに聞いてみると、コクコク人形のように頷いている。
「多分、指先で、詠唱して、全出力出しても、あの細いのは無理だ。ましてや持ってくるなんて考えたこともない」
グレンが無理無理と手を振っている。
出力調整ができないのだろうか?
「じゃあ考えてみたらいいですよ。足もとに置いたものを持ち上げる練習から始めたらいいです。浮遊練習と似たようなものですから。」
そう伝えると、グレンがホッとしたような顔で笑う。
「浮遊なら俺にもできる」
「それを魔法ではなくて、魔力でやる感じです。試しに、指を出してみてください。ちょいと流れを操作しますんで」
私は、それぞれの両手の自分の人差し指と、グレンの人差し指の端を引っ付ける。
「さあ、魔力を私に向けてぶっ放してください。大丈夫です。頂いた魔力は、ちゃんと回って返しますんで」
「え!いやいや、怪我させちゃうよ」
「小さな魔女が、師匠と始める最初の練習です。問題なし!」
私はうふふと楽しくなってくる。
昔、同じように師匠の人差し指をつけて、必死で魔力を流したわね。
遠い昔──
師匠と2人でやった訓練を思い出す。
「デボラ、魔力を流せって言ったの。鼻息をふきかけろとは言ってないわよ」
「......は、はい!ふんっ!」
「あはは!私の前髪がデボラの鼻息で舞い上がってる」
あはは!
うふふ!
そんな笑い声が、脳裏からすっと聞こえてくるようだ。
「私は、最初の頃は流す魔力よりも、力を込めて噴き出す鼻息の方が強かったんですよ。練習で少しづつだせるようになりましたけどね」
そう笑いながらも、ふと心は沈んだ。
師匠、あの後どうしたんだろう?
逃げ切れたのかな?
もしかして、私をダシに捕まらなかっただろうか?
そう、ふと思い出して心が重くなった時──
クイッと指元に力を感じた。
グレンが、まさに必死に真っ赤な顔で魔力を流している。
もしかして......流してる?
(うーん、私の人差し指の付け根ぐらいで、魔力の勢いが落ちて止まっている。長く魔力を伸ばせないのか...)
冗談ではなさそうだ。
今は、魔力があるだけで貴重だと言っていたものね。
「これは訓練だから繰り返すしかないですからね......って、アレ?」
突然指先に抵抗がなくなる。
「わあああぁぁぁ!グレンさん」
真っ赤だったグレンが、突然ばたりと倒れ、意識を失う。
「ま、魔力...枯渇...しました。面目...ない」
ええええっ!もう!魔力枯渇!
嘘でしょ!
私は慌てる。ええと、魔力が枯渇したならアレだ。
「そうなんですね。ごめんなさい。魔力を使った時用に、先にドリンクを準備しておけばよかった。」
私は急いで空間バッグを開けて、グレンの口元に魔力を回復させる真っ赤なドリンクを流し込んだ。
グレンは瞬時に顔色が戻り、私はホッとするが、その横にいたヘンケルが言いづらそうに声をかけてきた。
「あのさ、デボラ。多分、そんな一発、魔力回復ドリンクなんて、この世には存在しないんだけど、それ......何かな?いや、魔力が一発回復って、歴史書に出てくるアレしかないよね」
ドリンクの瓶は、薄い赤色だ。
これは、小型ドラゴン(魔物だがトカゲサイズ)の赤い魔石を集めて魔力だけを抽出、ダンジョンで不純物ゼロの水に魔力をつけ込み、魔物バチのはちみつを入れて、ほんの300年つけ込んで出来たドリンク。
「マナポーションですけど。作り方はオリジナルです。ちょっとの日常の魔力回復なら一番優しい味わいで美味しいと思ってるんです」
「やっぱり!ま...まな......えーっ!伝説のマナポーション......」
グレンは、再び顔色が悪くなり、そのまま倒れた。
◇
グレンは横たわったまま──
「大丈夫だよ。僕たちは、ちょっと、伝説のものを目にして、口にして興奮しただけだ。グレンは今頃、その伝説の夢をみて幸せだと思うよ」
レグスタインは、ははっと笑うが、少し顔がこわばっているような......でも、気を取り直したように微笑んでいる。
さすがリーダーだわ。
考えていることが全く読めないもの。
でも、マナドリンクは、この時代には珍しいものなのだということはわかった。
私にとっては、疲れた時の一本に過ぎないんだけど。
「それで、これからどうするんだい?」
「弓の弦はユニコーンのたてがみにした方が、弓初心者の私にでもビュンビュン飛ばせるんじゃないかと思うんです。矢は、消耗品ですから、300年前地上で飛んでいた実際の鳥の羽に変えてみます。グリフォンやロック鳥はどうでしょうか?」
そう提案してみるが、今度はヘンケルが頭を抱えている。
「おい!300年前ってグリフォンがいるのか?ロック鳥ってなんだ?」
それをみたバインも共に叫ぶ。
「いや、それ以前にユニコーンのたてがみって何?ユニコーンって実在するの?」
「いますよ。ああ、そうか。すいません、ダンジョンだと200階前後に居たんですけど倒しちゃったんです。これなんですけどね」
私は空間バッグを大きく開けた。
そして、ユニコーンのこと切れた丸々を取り出して浮かばせる。
「ツノも使えるし、馬肉としてもいただけるし、たてがみとか、尻尾の毛、毛皮も使えるかと思って解体してないんです。
でも、これは300年前も珍しかったので、ちゃんと普段は隠しておきますね......って、アレ?」
振り返ると、ヘンケルも倒れている。
レグスタインは、顎に手を当てながら、苦笑いした。
「諜報活動が得意なヘンケルも、バックの中身までは把握できないみたいだね。僕も、落ち着こうとしているけど、流石にユニコーンまで見ちゃうと動揺を隠せないよ」
そう穏やかに微笑んだが、顎に当てた手は少し震えていた。
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