この作品は怪異を扱わない。
幽霊も妖怪も怪物もシリアルキラーもサイコパスも呪いも呪物も祠も奇妙な因習も登場しない。
超常現象に係る事柄は一切登場しない。
驚くべきことに、怨念や悪意すらない。
それでも〝嫌さ〟は確実にある。
類まれなホラー作品だ。
物語の焦点となる隼人と梓。
一家が購入した新築の建売戸建ては優良物件だ。
建物に問題はない。
人気学区、駅徒歩五分、周辺環境も良好。
近隣住民にも好感が持てる。
ホラージャンルだと知って本作を読む者は、物語を読みながらも〝今になにか起きる〟〝何かがあるはず〟そう身構えることだろう。
でも、何も起きない。
ただ建売の販促チラシみたいな理想的な生活が続く。
問題はない。概ねない。
新築の家屋は違法建築ではない。
もちろん、事故物件ではない。
地盤の問題もない。
不動産会社は嘘はついていない。
近隣住民は普段の暮らしに隠していることはない。
ただ一つ。
住環境に数字に現れない事柄があり、それが住む者の人生に影響を与えるというだけだ。
ホラーとして最高のタイミングでその事柄は明かされる。
そして明かされた後の最後の最後まで読む者は絶妙な〝嫌さ〟を受け取ることだろう。
本作は精妙に組み立てられた秀逸なホラー短編である。
是非とも、閲覧をお勧めしたい。
作者さまのノートから拝読に参りました。
「いや、おたくがどう読み始めたかなんて知らないよ」と思いますでしょう?
しかしそちらに大変 興味深いことが書かれていましたので共有したいのです。
──「お化けや幽霊といった怪異は登場しません。」
ジャンルはホラーなのですよ⁉︎ なのに怪異が登場しない!
もう……ここでこのレビューを切り上げてもいいくらい興味を惹かれるではありませんか!
もうどうぞどうぞ、このまま作品の方をお読みになってくださいませ。
いやあ、「うわあぁ、本当だァ……!」ってなりました。
幽霊も妖怪も出てこない。なのに怖い!
ここまでお付き合いくださっているあなたさまは、もしかしたらこんなふうにお考えかもしれません。
「ヒトコワ?」
──いいえ。
心霊的な怖さでも、SF的な怖さでも、「ひえぇ、この人怖い……!」でもないのです。
なのに怖い。強烈。
ええ、もう その「じゃあ何⁉︎」を抱えたままお読みいただきたい!
長々べらべら喋ったくせに大事なことは何もお伝えできておりませんが、「ええ、どういう感じ……?」を胸にお楽しみいただきたいのです。
終盤の「うーっわマジかぁ……」、お約束します!
ぜひぜひ‼︎
古典からして家に纏わるホラーとしたら、『家そのものが怪異』であるというのが定石だ。
『ヘルハウス』、『HOUSE』、『スウィートホーム』
だが、本作はそれらとは違う『塗り替える』ものである。
『新築戸建て 駅徒歩五分・人気学区』などと不動産業者の謳い文句にあればすぐに買い手がつくようなものだ。
主人公一家が念願のそんなマイホームを手に入れた。
前半は一家の楽し気な日常、だが、ホラーに慣れた者からすれば「来るぞ、来るぞ」だ。
そして、後半。
「思ってたのと違うな……」
本作の恐怖は『塗り替える』ものである。読んだものは意味が解り、背筋がゾーッとする事間違いなしであろう。
怪異よりも恐ろしいものは案外、人間なのかも知れない。