No.3リービッヒ冷却器は覚えにくい

 さて、今日も今日とて宿のベットで一夜を過ごす。今日も今日とてというほどこの世界にはいないが、この世で泊まった場所がここしかないのだ。妥当な表現といえば妥当だろう。


 さぁ、この軍資金をもとにまずは水だ。日本では昔から、コーヒーやお茶が流行りきらなかったという歴史がある。これは他の国が水そのままで飲むと不味かったからだ。だから何かを混ぜて誤魔化していたわけ。

 その心も今は理解できる。だって不味いもん。

 実際に2回行った町役場兼レストランのギルドでは、水を飲むような、つまり飲み物を頼まないのは僕ぐらいだった。もちろん、冒険者という役柄上、単純に飲んだくれが多いということもあるだろう。が、あれは、皆、水の不味さに耐えきれてないといったところだろう。


 つまり、おいしい水があれば、もしかしたら一番の売れ筋飲料になるかもだし、おいしい水でもっとおいしいお酒が造れるかもしれない。そう、これは商売なのだ。ケン〇ッキー・フラ〇ド・チ〇ンのように作り方で商売してもいいし、コ〇・コー〇のように作り方は秘密にしておいておいしい水として売って暴利をむさぼってもいい。いつだって初めての試みというのは本来よりも大きな付加価値を生み出してくれるのだ。コロンブスの卵ってやつだな。


 おいしい水を作る。簡単にいうが実は難しい。塩素で消毒したり、ろ過したり。そういうことは今回は難しい。なので、蒸留を使う。

 蒸留というのはとても簡単にできる。本当はリービッヒ冷却器なんてものを作ってあげれば楽なのだが、この世界にガラスがあるのかさえ分からない。今回は簡易的にしよう。

 水をためる器と火、冷やす氷さえあれば余裕なのだ。しかし、今はいわばホテルのような場所に泊まっている。さすがに借りた部屋の中で薪をくべ、火をおこすというのはためらわれる。ならば、どうしようか。協力者を作るか?いや、友達いないしなあ。実際、協力して莫大な富を生んだら、その後内輪もめで内部破壊されていくことがあることは重々知っている。

 別に強がりじゃないよ?一人でやった方が気が楽だもん。



 …。

 いや、別に宿でやる必要なんかない。町から出ればいいのだ。昨日だって、僕はクエストに町から出ているではないか。ここは異世界。森で火を使うことだって、野宿で火をたくことだってあるだろう。外で火を使うことは何ら不思議はない。そうと決まれば準備だ。




 見立て上1Lは入るであろう金属製の水筒2本、長い管のようなもの、火起こしようの札、冷やす用の札各種一枚。これが朝から昼まで様々な店を回って得たものだ。お札の効力がわからない以上、失敗は全然あり得るが、これで使ったお金はわずかに所持金の半分を割り込まない程度。まだやり直しはきく。なら、挑戦あるのみ。




 早速森のそばまでやってきた。森の入り口でまずは薪になりそうな木を見繕うとこからだ。僕の田舎の学校では火起こしのやり方、火の維持の仕方は習う。それがまさかこんな場所で生きるとは思わなかったが。過去教えてくださった先生方に頭の中で会釈しつつ、てきぱきと薪候補を選ぶ。

 

 さて、準備は整った。組んだ薪の最底に起動させた札を忍ばせる。そもそもこの世界の魔法札とは時限式で、手で発動させてから、3秒のラグの後効力が発揮されるらしい。この場合でいくと燃える。

 あとは簡単だ。水筒をそのまま煮沸するだけ。そして水筒の先に管をつけてもう一方の水筒にただ、水蒸気を集めればいいのだ。もちろんそっちの水筒は冷やす用の札で冷やしておく。

 使ってみてわかったが、火を起こす札はそれ自体に多少、火の維持性があった。まあ30秒ぐらい?もちろんそんな時間では足りないので薪に火を移しておくのだが。一方の、冷やす方の札は結構長持ちした。大体1時間ほどか?

 分からないが燃やす方が冷やす方よりもエネルギーを使うし、まあそういうことなのかもしれない。




 ともかくだ、簡易的だが、作った蒸留器はうまくいった、水蒸気をすべて集めれるわけではないので、元の水筒いっぱいに入っていた水は半分程度に体積を減らしてしまったが。

 とりあえず一口。


 …うまい。激うまである。最初の水に比べれば格段にうまい。そして同時に思う。これは商売できるほどであると。これから魔法とか大きな施設とかを作って、もっともっと大規模に蒸留水を作り、最終的には水道のような施設を作って安心安全な水をいつでも飲めるようなシステムを作り、盤石な地位と富を得たい。

 普通ならなにを絵空事を、と笑われるだろう。が、そんな夢が現実味を帯びるぐらい、この世界の水は不味く、また自作の蒸留水はおいしかった。

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