第20話 結局は成り行き

『敵機がこちらに接近してきているんですか……!?』


 加藤が状況を判断して、中里に聞く。


『そう判断せざるを得ないだろうな。君たち、この空域から撤退しろ。遊覧飛行は中止だ』

『中里さんはどうするの~?』

『君たちを守ることも俺の仕事の一つだ。固定機銃しか攻撃手段はないが……。第3飛行隊の連中と協力すれば、追い払うことくらいは出来るだろう』

「ついに実戦ですか……」

『おう神崎。お前は舌を噛み切らないようにしておけよ。あと撮影を忘れるな』

「了解です」

『では撤退します。中尉、お気をつけて』


 加藤が中里の無事を祈り、3機は旋回を開始した。


『さて……。行くぞ、神崎』

「はい」


 フラップ、エアブレーキを格納し、スロットルレバーを全開にする。アフターバーナーが火を噴き、T-2は速度を上げて影の集団に突っ込んでいく。

 その距離が3キロを切った辺りで、中里は機銃をぶっ放す。バルカン砲が瞬間的に高速で回転を始め、引き金を引いてからコンマ数秒後に弾丸が発射される。同じコンマ数秒の間に弾丸は数十発放たれ、鋼鉄の雨が影に降り注ぐ。

 圧倒的な火力により、集団の先頭を飛んでいた敵機が爆散する。それを確認する前に中里は操縦桿を引き、影の集団の上へと上昇する。


『1機撃墜。まさか広報室が敵機を撃墜するとは思わなかったぜ』

「第3飛行隊のほうも、どんどん撃墜していきますね」

『しかしざっと見で、あと20機はいる。全機墜とす前に残弾が尽きるぞ』


 そんな心配をしながらも、中里はハイ・ヨーヨーをしつつターンして影の集団を再び追いかける。

 上から降り注ぐように弾丸を放ち、そのまま圧倒的な速度で追い抜いていく。これで2機目を撃墜した。


『2機目! ジェット機相手じゃ何も出来ないだろうな』


 中里が再び旋回しつつ、また影の集団の後方へと接近していく。そんな中、神崎はある違和感を覚えていた。


「……中里中尉、何か変じゃありませんか?」

『変ってなんだ?』

「影の連中、さっきから我々に対して反撃をしていません」


 神崎の指摘を受けて、中里は影の動きをよく見る。確かに、影は第3飛行隊やT-2という明確に敵対してくる航空機を無視して、ただひたすら何かを目指して飛んでいるように見える。中里は、影の向かう方向を見て、ある嫌な仮説を思いついた。


『まさか、影の狙いは梅香隊か……?』

「そんなこと……。あり得ません」

『俺もそう思いたいが……。いや、その前に敵機を全部墜とせば問題ない』


 中里は迷うことなく、影に対して攻撃を継続する。3機、4機と墜としたところで、残りの影は残り8機になる。

 しかし、中里が悪態を吐く。


『クソッ。残弾が12発しかねぇ。あと1機は墜とせるだろうが、全部は無理だ』

「第3飛行隊はどうなんでしょう?」

『聞いてみるか』


 中里は通信のチャンネルを変え、第3飛行隊に呼びかける。


『こちら防対本専従航空広報室。コールサイン、ミドル。機銃の残弾がほぼ尽きた。第3飛行隊で残弾がある機体はいるか?』


 ザザッと変調の音が鳴って、返答が来る。


『こちら第3飛行隊。こちらも残弾なし。これ以上の攻撃は不可能だ』

「最悪の展開だ……」


 神崎は舌打ちをしそうになったが、中里に小言を言われるかもしれないと考え、思いとどまる。


『今からでも遅くない。入間基地の中部高射群に連絡して、高射隊による地対空誘導弾の使用を求める』


 そう決めた時であった。


『中尉! 私たちがいます!』


 無線から加藤の声が聞こえてくる。


『うちらも戦えるよね~』

『そもそもアタシたちが原因かもしれないんでしょ?』


 中里はデカい溜息を吐く。


『君たちなぁ……。出動する時の話聞いてたか? 敵機に近づくな。その命令を無視するのは自衛官としてあり得ないぞ』

『しかし、このまま市街地に接近されれば、どうであれ被害は拡大します』


 加藤の説得に、中里は瞬時に考える。自身への責任転嫁、足立空将補への説明、今後の進退、民間への被害、その他諸々。それらの勘定を合算して、中里は結論を出す。


『……梅香隊、残弾を申告せよ』

『加藤、残弾500発』

『浜口、残弾1000発ー!』

『岡井、機首1400発と翼内400発~』

『おやっさんめ。戦闘が発生する前提で整備してやがったか……』


 中里は恨み節にも聞こえる呟きを残す。


『シミュレーターでの訓練を思い出せ。敵機は比較的単純な動きをしている。訓練通りにやれば、苦戦はしないはずだ』

『了解』

『それじゃ、戦闘開始ー!』

『いっきま~す』


 梅香隊の3機は方向転換をして、影の集団へと向かう。

 梅香隊の方がやや高度が上である。ゆっくり降下しながら照準を敵機に合わせる。そして引き金を引いた。

 タタタタッ、とバルカン砲よりも遅い発射レートで弾丸が発射される。それが敵機の機体に命中し、翼がもげる。その際、断面から赤っぽい液体が大量にこぼれ落ちる。


『撃墜!』

『やりぃー!』


 そのまま影の集団の上を通過していく梅香隊。それに合わせるように、まだ生きている敵機が旋回してくる。

 しかし、位置エネルギーから運動エネルギーを得た梅香隊は、圧倒的な速度差で影の集団を引き離し、そして位置的にも有利なまま旋回を終える。再び攻撃をする時には、影の集団の側面を狙えるようになっていた。


『狙いを絞って……。撃つ!』


 基本に忠実な加藤は、3点バーストを意識した射撃を心がける。


『おりゃー!』


 とにかく攻撃第一の浜口は、狙える敵から次々と狙っていく。


『そ~れっ』


 3人の中で一番操縦が上手い岡井は、まるでヘリのようなフワッとした飛び方で敵機を翻弄していく。

 結果、加藤は3機、浜口も3機、岡井は2機を撃墜して、影の集団は全機墜としたことになる。


『全く、ヒヤヒヤさせるぜ』

「本当ですね」

『つーか神崎、ちゃんと撮影はしていたんだろうな?』

「え、えぇ、まぁ……」

『……いや、今回の戦闘は撮影しなくてもいいか。帰還する時の編隊飛行の写真でも撮っておけ。今回はそれを訓練の一環として投稿するぞ』

「……? 分かりました」


 こうして梅香隊は百里へと帰還するのだった。

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