第12話 国内外の情勢

 世間は連休であるが、戦時体制に移行した自衛隊員に連休など存在しないも同然である。

 しかし、影の行動は気まぐれな天気のようで、すでに10日くらい姿を見せていない。


「全く。これじゃあ開店休業状態じゃねぇかよ」


 中里がそんなことをボヤキながら、庶務室に置かれているテレビのチャンネルを回す。

 どのチャンネルも、世界に同時多発的に出現した影の特集を行っていた。


『……国籍不明勢力は、すでに太平洋の空を制圧しつつあると言えます。昨日も、ハワイを出発した民間の旅客機が北太平洋上で消息を断ったという情報が上がっています。これも、国籍不明勢力の仕業に違いありません』


 どこかの大学の准教授と紹介されている男性が、少し捲し立てるように話す。


『さらに問題なのは、第二次世界大戦期に実際に運用されていた爆撃機や攻撃機が民間の船舶を攻撃していることです。攻撃を受けている船舶は無差別で、パナマ国籍だろうと中国国籍だろうとお構いなしです。これまでの情報と照らし合わせれば、国籍不明勢力は全ての国家に対して敵意を持っている武力集団と言うことになります。これは人類に対する明確な宣戦布告ですよ』


 少々ヒートアップしている准教授を、番組司会のアナウンサーが収めつつ、現在の国内と海外の状況を解説する。


『まず国内の動きについて見てみましょう。総理は今日未明、緊急事態宣言を理由に、防衛産業に参画している日本企業に対し、緊急の防衛装備増産計画を行うように声明を発表しました。この声明は臨時閣議にて閣議決定され、本日正午より法律と同等の効力を発揮するようになりました』


 アナウンサーの解説と共に、モニターの解説が変わっていく。


『臨時防衛装備増産計画ですが、国内からは双菱ふたびし重工業を中心とする防衛産業企業がすでに動き出しています。中心にいる双菱重工業は、船舶に後から設置できる対空兵器の設計製造を開始しており、山崎重工業も航空機に搭載する銃座と呼ばれる兵器を即席で取り付けることが出来る装備を開発中とのことです。また防衛産業から撤退していた住吉重機械工業も、これから必要になってくる重機関銃のライセンス生産を再開させるべく、法的問題や日本政府に対する大規模な補助金の拠出の確約などの交渉に出ているようです』


 モニターの解説画面が変わり、今度は国外の話へと移っていく。


『国外に目を向けてみましょう。すでに多くの旅客機が国籍不明勢力によって攻撃され、墜落している現状を鑑み、国連の専門機関である国際民間航空機関は「避難などの危機的状況を除き、民間航空機は原則離陸を禁止する」という声明を発表しました。これにより、人類は空を飛んでの移動が禁止となりました。また、同じく国連の専門機関の国際海事機関も、民間船舶の攻撃を受けて「各国海軍の護送船団設置を強く要請する」と発表しています。とある政府高官は、「この二つの発表は人類の移動を大きく制限するものであり、今後の移動に関して大きな影響を与える」と話していました』


 空と海、その両方にとんでもない爆弾が置かれたと言ってもよいだろう。

 人類の移動を制限する。それはすなわち、これまで人類が築いてきたサプライチェーン全てを破壊する行為に等しい。産業の主なエネルギー源である石油や、全人類の食料はタンカー等によって運ばれる。人類の主な移動手段は航空機だ。この二つを封じられるということは、現代の人類社会の崩壊を意味することになる。

 が、番組のアナウンサーはそんなことを微塵にも思ってないような調子で、司会として番組を仕切っている。


「全く、これだからお花畑のマスコミ様は嫌なんだよなぁー」


 SNSのアカウントを作成して、それを基地司令である足立空将補まで回覧するためのお伺い書を作っている神崎。そんな彼にまで聞こえるようなデカい溜息が中里から発せられる。

 すると、中里の官用スマホに着信が入る。電話のようだ。


「はい、中里です。はい、はい、分かりました。準備しておきます」


 電話を切ると、神崎に声をかける。


「神崎、志願してきた女子生徒が百里に到着したそうだ。出迎え行くぞ」

「もう来たんですか!?」

「当たり前だろ。これから空戦に関する話を徹底的に叩き込むんだ。時間が惜しい」


 そういって中里は、航空広報室が使うことができる業務車の鍵を持って、庶務室を出る。


「あぁ、待ってください……」


 最初に会った時から、色々と振り回されている神崎であった。

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