君とボクの二度目の冒険 〜病弱だった僕は、二度目の命で幼なじみと世界を旅する〜

屠龍

第一章 君と出会った夏

第1話 僕の運命を変えた笑顔

 第一話 僕の運命を変えた笑顔


 「涼しそうだね。ボクも一緒に遊んでいいかな」


 その声に顔を上げた瞬間、僕は息をのんだ。


 夏の風に揺れる、艶やかな美しい緑色の長い髪。

 川の光を浴びて輝く緋色の瞳。

 そして、沢の岩の上で咲くみたいな満面の笑顔。


 前世で女の子と話す機会なんて、ほとんどなかった僕は、緊張してうまく声が出せない。


 「だめ?」


 少しだけ首をかしげて、いたずらっぽく笑う。

 その仕草があまりにも可愛くて、僕はますます言葉を失った。

 前世で女の子と話す機会なんて、ほとんどなかった僕は、緊張してうまく声が出せない。


 ただ見上げることしかできない僕を、彼女は不思議そうに見つめていた。

 岩の上から差し込む陽射しを背負ったその姿は、まるで夏そのものが笑いかけてきたみたいだった。


 「ううん、いいよ。一緒に遊ぼう」


 ようやくそう言うと、彼女はぱっと顔を輝かせた。


 「やった!」


 迷いなく差し出された手を、僕は思わず握り返す。

 ひんやりした川風の中で、その手だけがやけにあたたかかった。

 それが、僕とミレーヌの出会いだった。


 「滑るから気を付けてね」


 「大丈夫だよ。ボク、運動神経いいもん」


 そう言って女の子は楽しそうに笑い、僕の手を引いた。

 まだ名前も知らないのに、不思議とずっと前から知っていた子みたいに思えた。

 初めて会ったはずなのに、胸の奥が少しだけ懐かしくなる。

 そんなこと、あるはずないのに。


 「僕はユキナ。名前、聞いていいかな?」


 「ミレーヌ。ボクはミレーヌだよ」


 そう言ってミレーヌは岩場から軽やかに飛び降りた。

 ぱしゃり、と水しぶきが上がる。

 中州では友達が何人も手を振っていた。

 ヤオとシンジが大声で何か叫んでいて、ミンとスグハは僕たちを見て笑っている。

 いつもの河原、いつもの友達。

 なのに、その日だけは景色の全部がいつもより明るく見えた。


 「ユキナ、早く!」


 「う、うん!」


 僕はミレーヌに手を引かれたまま、川底を蹴って走った。

 水はひんやりしていて気持ちよく、裸足の裏に丸い石の感触が伝わってくる。

 跳ねた水滴が足に、腕に、頬にあたる。

 笑い声が弾けるたび、空まで青く高く広がっていく気がした。


 胸も苦しくない。

 足も痛くない。

 少し走っただけで息が上がることも、立ちくらみでしゃがみ込むこともない。

 僕の体は健康そのものだった。


 生きている。


 誰もが当たり前にできるそのことが、前世の僕にはできなかった。

 外で友達と遊ぶこと。

 冷たい水に触れること。

 好きなだけ走ること。

 女の子と手をつないで笑うこと。

 そんな当たり前が、昔の僕には何より遠かった。


 前世の僕は、不治の病でずっと病室のベッドから起き上がれなかった。


 両親も、お医者さんたちも、最後まで僕を助けようとしてくれた。

 けれど僕は、何も返せないまま終わってしまった。


 生きたかった。


 ──でも、駄目だった。


 最後の時、泣き続ける両親を見ながら、僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 薄れていく意識の中で、たった一つだけ願った。

 もし健康な身体に生まれ変われるなら。

 両親やお医者さんたちのように、今度こそ誰かのために生きたい。


 白い天井が見えなくなるまで、僕はそう願っていた。


 「ユキナ!」


 名前を呼ばれて顔を上げると、少し先でミレーヌが笑っていた。

 陽を受けた緑の髪が水面のきらめきに溶けて、まぶしいくらいに輝いて見える。

 その笑顔を見た瞬間、胸の奥で何かが静かに動いた。


 ああ、と僕は思った。


 この出会いはきっと、僕の人生を変える。


 その時の僕は、まだ知らなかった。

 この夏の日から始まる出会いが、やがて世界を揺るがす戦いへ繋がっていくことを。

 そして、ミレーヌと共に歩く未来が、僕自身の運命を大きく変えていくことを。

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