第21話「家族の集まり」
【2日目・恵視点】
昼休み、会社近くの公園のベンチに座って簡単なサンドイッチを食べていた。竹山くんとのメッセージを何度も思い返していたせいで、まともに食欲が湧かなかった。冷たい空気が頬をかすめたが、むしろ頭を整理してくれるようで悪くなかった。彼の拒絶の言葉をもう一度開く。淡々とした文章だったが、その中には彼なりの配慮と一線が感じられた。私は依頼人として扱われ、この件に真剣に向き合うという無言の約束のように思えた。
その時だった。突然、影が私の上に落ち、嫌になるほど見覚えのある香水の匂いが鼻を刺した。顔を上げると、案の定、伊藤直樹が侮蔑の表情で私を見下ろしていた。
💬直樹|「離婚したくらいで調子に乗ってんなよ。子どもは俺に押し付けて、こんなところで悠々とサンドイッチか?」
彼の声を聞くだけで吐き気がした。私は返す価値もないというように視線を逸らし、立ち上がろうとした。しかしその瞬間、伊藤直樹が獣のように飛びかかり、私の手にあったスマートフォンを乱暴に奪い取った。
💬恵|「何するの!返して!」
彼は私の叫びを嘲笑いながら、ロックを解除しようと必死に操作していた。慌ててパスワードを変えることすら思いつかなかった自分に遅れて後悔が押し寄せる。やがてロックが解除され、彼の目が竹山潤とのメッセージに止まった。彼の顔が一気に赤く歪んだ。
💬直樹|「この野郎が…!竹山潤?弁護士なんかとくっつこうとして離婚したのかよ!?母親の分際で、離婚してどれだけ経ったと思ってんだ、もう他の男に尻振ってんのか!」
彼の口から吐き出される汚い言葉に、血が逆流するような感覚だった。その瞬間、彼は私のスマートフォンをアスファルトに叩きつけた。「パキッ」という音とともに画面が粉々に砕け散る。すべてが一瞬だった。
私は壊れたスマートフォンの破片を見下ろした。竹山潤と繋がる唯一の連絡手段であり、私の決意の証でもあったそれが壊された。それでも不思議と涙は出なかった。代わりに、怒りで体が震えていた。ゆっくりと顔を上げ、私は彼を真正面から見た。
💬恵|「あなたが何なの。あなたが何様のつもりでスマホを壊して、私の人生に口出しするの。離婚届に判を押した瞬間から、あなたは私の人生にとって完全な他人よ。私が誰に会おうと、何をしようと、あなたには関係ない。汚い手を離して。」
昔の私なら、こんな言葉は言えなかった。彼の暴言や暴力の前でただ縮こまるだけだった。だが、もう違う。竹山潤が示してくれた尊重と、自分で取り戻そうとしている人生への意志が私を支えていた。私のはっきりとした声に、伊藤直樹は一瞬たじろいだように見えた。しかしすぐに怒りを抑えきれず、歯を食いしばって私を睨みつける。
💬直樹|「…竹山潤、あの野郎。絶対に許さねぇ。クソが…覚えてろ。」
憎しみに満ちた言葉を吐き捨てると、彼は壊れたスマートフォンを一度踏みつけ、そのまま背を向けて去っていった。私は彼の消えた方向をしばらく見つめ続けた。心臓は激しく鼓動していたが、怖くはなかった。むしろ、はっきりと理解できた。私はもう彼の支配下にはいない。私は自分の選択をした。この道の先まで行くしかない。壊れたスマートフォンよりも守るべきものが、確かにそこにあった。
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【1日目・直樹視点】
怒りが頭のてっぺんまで込み上げていた。公園を抜けて街を歩いている間も、さっきの長谷川恵の生意気な目つきが頭から離れなかった。俺を、伊藤直樹を、虫でも見るような目で見やがって。離婚届に判を押したくらいで本当に終わったと思っているのか。勘違いも甚だしい。
「あなたは私の人生から完全に他人よ。」
その言葉が刃のように耳にこびりついていた。俺が誰のおかげで楽に暮らさせてやっていたと思っている。俺がいなければ、あいつはとっくに傷ついて捨てられていた女だ。子供までいるくせに、誰が拾ってやったのかもう忘れたらしい。
さらに腹が立つのは、その相手が竹山潤だということだ。あの気弱そうな男。昔は長谷川の後ろをちょろちょろついて回っていたくせに、弁護士のバッジを付けた途端に偉そうにしやがって。昨夜送った俺の警告文も無視か?俺の女に、しかも子持ちの離婚女にちょっかいを出すなと、はっきり言ったはずだ。
💭直樹|「くそ……こいつら、俺をなめてやがる」
長谷川のスマホに表示されていたメッセージ内容が蘇る。「昼食でも一緒にどうですか」。反吐が出る。俺と暮らしていた時は疲れただの金がないだの、言い訳ばかりしていたくせに。離婚した途端に別の男と飯を食う余裕があるのか。俺という男に出会う前は何も分からなかったくせに、竹山という奴がそそのかして狂わせているに違いない。
このすべての原因はあの弁護士だ。あいつさえいなければ、長谷川もあそこまで増長しなかったはずだ。西原詩彩も同じだ。急に態度を変えて訴訟だの何だの言い出したのも、裏であの男が焚き付けているに決まっている。俺の女たちを奪い取ろうとする、最低最悪のクズだ。
怒りに任せて近くのコンビニに入り、冷蔵庫から焼酎の瓶を掴んでそのまま口をつけた。冷たく苦いアルコールが喉を流れ落ちると、煮えたぎっていた怒りが少しだけ引いていく。だがその代わりに、より冷たく深い憎悪が根を張った。
長谷川の反抗的な態度。詩彩の裏切り。この不幸の元凶は竹山潤だ。あいつは俺からすべてを奪おうとしている。家庭も女も、そして俺のプライドさえも。このまま奪われるわけにはいかない。絶対に。
💭直樹|「言葉じゃダメだな。警告?そんなもので怯むような奴じゃない。徹底的に潰して、二度と俺の前に出られないようにしてやる」
酒瓶をゴミ箱に投げ捨て、コンビニを出た。闇が落ち始めた街。頭の中は竹山潤への憎悪だけで満たされていた。どうやって壊すか。どうすれば最も苦しめられるか。単なる暴力では足りない。あいつのすべてを奪い、社会的に抹殺する必要がある。その始まりは——息の根を止めることだ。
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