第6話 地底世界(2)
ジャレスを追撃する大帝。
一機の人型ロボットと四機の霊戦からなる物語小隊だ。
<物語物部>
「さてさて。猛火から逃げる夏の虫たちは、わたくしどもの優雅で繊細な追撃に気がついているのでしょうかねぇ? 深追いはするなとの厳命があるゆえ、逃げられると厄介です」
<いがぐり>
「こちらがステルス性能の高い戦闘機である霊戦だけであれば、攻撃する前に敵から補足されることはないでしょうが……」
<物語物部>
「この無粋な一丸式では、隠密行動など無理な話でしたね。ところで、いがぐり君。地上での戦闘で苦戦していた君は大丈夫なのかと、わたくしは心配して声を掛けましょう」
<いがぐり>
「はい、もちろん大丈夫であります。自分は初陣のつもりで気を引き締めていきます」
<物語物部>
「ほほほ。この前の作戦の汚名を返上するべし、であることよ!」
<いがぐり>
「了解であります、物語隊長」
アゲハのブリッジで操舵を担当していた土間が最初にアラートに気づく。
<土間>
「レーダーにて敵を捕捉! リーダー、どうやら敵の追撃だ!」
<リーダー>
「敵? やっぱり大帝かな?」
<土間>
「ああ、間違いない!」
<リーダー>
「承知した! それじゃあ、直ちに迎撃に出てもらおう! みんな、聞こえるかな! どうやら大帝の追撃部隊が近づいてきたようなんだ!」
<カイル>
「了解しました! ちょうど訓練が一区切りついたところです! 準備ができ次第、今すぐ全員を迎撃に出します!」
<リーダー>
「迎撃と言っても、アゲハが敵を振り切るまでの時間を稼ぐだけでいいからね!」
<カイル>
「大丈夫です。こっちは新人も出すんです。無理させたくっても、できませんから!」
ジャレスからは三機が応戦に出る。
<いがぐり>
「敵、無印級。三機が向かってきます」
<物語物部>
「よろしい。それでは各機に告げ申す。必ず二機が一組になって敵一機に応戦することを心得よ。敵三機の動きは、このわたくしがかく乱しつつ把握し、適宜指示を出そうぞ!」
<いがぐり>
「拝命しました!」
敵に向かって前進中、通信で会話するジャレスのメンバーたち。
<土間>
「いいか、君たち新人は後ろの座席でサポートに徹してくれ。アゲハもできる限りの援護射撃で対応させてもらうからな」
<チャフカ>
「いいか、宮川。無理して役に立とうとするよりも、今回は周りの状況をよく見て実際の戦闘を目に焼き付けろ。それが一番の訓練になる」
<宮川>
「わかっている。でしゃばるつもりはない」
<なだら>
「あ、あのう、敵のほうは五機みたいで、こちらより数が多いですけど? 訓練してあげている余裕は……というか、もっと訓練してから出撃したかったですけど」
<ジュニア>
「大丈夫ですよ、なだらさん! アゲハの機銃で僕が援護しますから! あと、目的は敵を倒すことじゃなくて、逃げるまでの時間稼ぎですからね」
<チャフカ>
「とりま、そして坂下とやらも覚悟はいいか?」
<坂下>
「は、はい! ね、とりまちゃん?」
<とりま>
「……うん!」
<チャフカ>
「さて、敵が目視できた。健闘を祈るぜ。全員にだ!」
両軍、戦闘開始。
しばらくは、お互いにけん制し合うような動き。
チャフカの後ろに乗る宮川。
<宮川>
「自分が操縦している気持ちになって見させてもらってるが、駄目だな。どんなに集中したところで攻撃が避けられそうもない。動き回ってる敵に攻撃を当てるなんてもってのほかだ」
<チャフカ>
「安心しろ! 不屈の精神を持ってりゃ、一発や二発当たったくらいで死にやしない! そして訓練によって手に入れた根性で生き残る!」
<宮川>
「……くそ、俺にひらめきと直感がありさえすれば! まるで敵の動きについていけないぜ!」
<チャフカ>
「お前が俺に勝てそうなものが一つだけあるぜ! 幸運だ! どっかから来た流れ弾の爆風で、敵に当たるはずだった弾丸が外れた!」
<宮川>
「速いうえに小さい……。戦闘機と息吹二式にはサイズ差があるが、不利なのはどっちだ?」
<チャフカ>
「パイロットが下手くそなほうだ!」
<宮川>
「なるほどな!」
そこへ、なだら機から通信が入る。
<なだら>
「聞こえますか、チャフカ先輩、後方にも敵が!」
<チャフカ>
「チィッ! 敵につかれたか!」
<なだら>
「そちらが囲まれる前に援護します! そ、そうしないと……」
<チャフカ>
「俺をなめるな、お前は自分の心配をしろ! 敵も弾幕を張ってきている!」
<なだら>
「うわっ! まるで隙がないですね!」
<チャフカ>
「よく訓練された弾幕は芸術的だからな。自分色に染まった花火の余興を加えるなよ?」
しかし、なだら機の動きに練度の低さを見る敵の部隊。
<物語物部>
「ふむ。どうやら後方に布陣する一機の動きがぎこちないと見える。いがぐり君、君たちは正面の敵機を突破し、最後尾の機体を狙いたまえ」
<いがぐり>
「了解しました」
<物語物部>
「さて、それではわたくし物語は、この一丸式で敵の注意を引きましょう、よの!」
敵の隊長機である物部への攻撃に集中するチャフカ。
とりまもそれを援護する。
<なだら>
「うわあ! こっちに敵が!」
<チャフカ>
「ちっ! 今は助けに行く余裕がねえぞ!」
<カイル>
「なだら、そこはそっちじゃない! ほら、早くあっちに銃を向けろ!」
<なだら>
「そんなこと言われても……あっ!」
ピンチに陥ったなだら。そこへ、とりまが助けに入った。
<なだら>
「あ、ありがとう! 助かったよ!」
<とりま>
「……ん!」
<坂下>
「やっぱりすごいな、とりまちゃんは……」
アゲハのブリッジにいる中上から通信が入る。
<中上>
「坂下! とりまちゃんに無茶をさせないでね!」
<坂下>
「あ、うん! わかってる!」
その後、戦闘は一進一退。
しばらくして、物語が敵機から距離を置く。
<物語物部>
「しかし、なかなかうまくやれないものですね。エネルギーの残量を見ると、そろそろ時間ですか……。心残りですが、仕方ありません。みなのもの、撤退です!」
<いがぐり>
「無念ですが、やむを得ませんね!」
<物語物部>
「追撃作戦に成果はなくとも、こちらにもさしたる損害なし。汚名はそそげずとも、ことさらに重なる不名誉もなし。さらには深追いするなとの上層部からの厳命つきにつき、これにて帰還する!」
<いがぐり>
「敵の追い討ちに注意してください!」
<物語物部>
「おにごっこではないのです。わたくしたちが逃げ出したからといって、敵が追いかけてくることもないでしょう!」
機体を反転させて戦場を離れていく物部小隊。
チャフカ以上に汗をかいていた宮川は眉をひそめる。
<宮川>
「なんだ? 敵は撤退していったぞ?」
<リーダー>
「教えてなかったかな? 高密度の地面の中を移動するには特殊なエネルギーを消費するから、残念だけど地中では長時間戦えないんだ」
<坂下>
「なるほど……。って、なるほど?」
<宮川>
「わかってないのに頷くな、バカ」
<坂下>
「あっ、先輩のせいでとりまちゃんがビクッてしました! 僕と一緒にうなずいてたので!」
<宮川>
「……すまん、とりまはいくらでもうなずいてくれ! わかってなくてもいい!」
<なだら>
「そうだよ! 僕を助けてくれた天使だ! ヒーローだ! これからのエース候補!」
<チャフカ>
「なだらぁ! おめえが新人を助けなきゃいけねえ立場だろうが!」
<リーダー>
「うん、なんか無事そうで安心したよ。よし、みんな帰還してくれ!」
かろうじて大帝の追撃から逃げ延びたジャレス。
出撃していた坂下たちがアゲハに帰還する。
<リーダー>
「みんな、お疲れ様」
<坂下>
「ふう、何とか無事でした。とりまちゃんもありがとう」
<とりま>
「ん」
みんなを出迎えるため、急いで駆け寄ってきた中上。
<中上>
「あっ、もう、とりまちゃん汗かいてるじゃない。ほら、ふいたげる」
<とりま>
「んんっ……」
<坂下>
「あ、今のうちに水持ってきてあげるよ。待っててね、とりまちゃん」
<とりま>
「んーっ……」
<宮川>
「至れり尽くせりだな」
<チャフカ>
「そう言うお前も汗かいてるじゃねえか。自分でふけるか?」
<宮川>
「何を言ってるんだ。ふけるに決まってる。これでも俺は成人済みの大学生なんだ。まだまだ子供な高校生のあいつらと違って、自分の始末くらい自分で――」
<姉原>
「はいはい、お姉さんがふいてあげるわ。頑張ったんだから自分をいたわりなさい」
<宮川>
「くっ……」
後ろから姉原にタオルをかぶせられて、強引に汗を拭かれるのを抵抗できず黙り込んでしまう宮川。
なされるがまま、体が硬直してしまう。
<カイル>
「それにしても、敵があっさり引いてくれて助かったな。地中の圧力につぶれることを覚悟で、透過エネルギーが尽きる時間が来ても捨て身で襲ってくるような執念深い人間じゃなくてよかった」
<リーダー>
「怖いことを言わないでよ」
<チャフカ>
「でも覚悟はしておいたほうがいいかもな。次も相手のほうから撤退してくれるとは限らない」
<なだら>
「うへえ……」
<カイル>
「なだら、そんな弱気でどうするんだ? 新人たちに負けじと強気にいけよ。限界や実力は気持ちに左右されるもんだぜ」
<なだら>
「強気で挑んで、なのに自分の限界が来たら?」
<チャフカ>
「その時は訓練で限界を押し上げろ」
<なだら>
「で、ですよね……」
リーダーが全員に声をかける。
<リーダー>
「みんな、本当にお疲れ様。これから俺たちは地底都市に向かうからね。それまではゆっくり休んでてよ」
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