第二部「世界へ ――1株から始まる挑戦」

第42話 「新しい株主」


株主総会から、東陽テクノの社内は、以前とは別の会社のようだった。


「おはようございます!」


廊下には笑顔で挨拶が飛び交う。


物流部では残業が大幅に減り、営業部では新しい提案制度が始まっていた。


改善プロジェクトは、全国の支社にも広がり始めている。


俺は経営企画室のデスクで、新しい資料を眺めていた。


『五か年成長計画』


一年前なら、絶対に触れることのなかった資料だ。


「佐藤。」


真壁がコーヒーを持ってきた。


「また難しい顔してるな。」


「数字を見ると胃が痛くなります。」


「慣れる。」


真壁は笑いながら去っていった。



---


昼休み。


受付から電話が入る。


「佐藤室長代理。」


「はい。」


「株主の方がお会いしたいそうです。」


「株主?」


最近は時々ある。


改善プロジェクトの記事を見て訪ねてくる個人株主だろう。


ロビーへ向かう。


そこには二十歳くらいの青年が立っていた。


少し緊張している。


「あの……佐藤さんですか?」


「そうですが。」


青年はカバンからクリアファイルを取り出した。


中には証券会社の取引報告書。


取得株数。


1株。


俺は思わず笑った。


「一株買ったんです。」


青年も照れくさそうに笑う。


「佐藤さんの記事を読んで。」


「株主総会に出てみたくて。」


その瞬間、一年前の自分が目の前に立っているような気がした。



---


「名前は?」


「田中悠真です。」


「大学三年生です。」


「投資は初めてで……。」


俺はロビーのソファに座る。


「緊張してる?」


「はい。」


「実は俺もそうだった。」


青年は驚く。


「え?」


「一年前まで普通の会社員だった。」


「年収三百万。」


「株は一株。」


「株主総会が見たくて買っただけ。」


青年は目を丸くした。


「本当に?」


「本当。」


二人で笑った。



---


その時。


後ろから声がした。


「未来は、あそこにいる。」


振り向く。


神崎社長だった。


青年は慌てて立ち上がる。


「しゃ、社長!」


神崎社長は笑いながら青年と握手した。


「ようこそ。」


「株主へ。」


青年の目が輝く。


あの日の俺も、きっとこんな顔をしていたんだろう。



---


夕方。


青年を見送ったあと、神崎社長が言った。


「佐藤くん。」


「はい。」


「君は気づいたか?」


「何をです?」


社長はロビーを見る。


「今度は君が、人生を変える側になった。」


その言葉に、俺は立ち止まった。


確かにそうだった。


一年前は俺が誰かに背中を押された。


今日は俺が、誰かの背中を押していた。


小さな一株。


その物語は、まだ終わっていない。


誰かから誰かへ。


静かに受け継がれていく。


――第43話へ続く。

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