第20話「任せる」


【現場改善プロジェクト】


俺は何度も資料の表紙を見た。


社長室を出てから十分。


まだ現実感がなかった。


責任者。


その言葉が頭の中をぐるぐる回っている。


「……無理だろ」


思わずつぶやく。


入社してまだ一年も経っていない。


管理職でもない。


部下もいない。


そんな人間がプロジェクト責任者?


どう考えてもおかしい。


その時だった。


「佐藤くん」


声がした。


振り向く。


真壁だった。


「聞いた」


早いな。


絶対どこかで情報回ってる。


「おめでとう」


そう言うかと思った。


だが真壁は苦笑した。


「大変だぞ」


「ですよね……」


俺は即答した。


真壁は資料を見つめる。


「ちなみにその案件」


「はい」


「みんな断ったやつ」


「……え?」


空気が止まった。


真壁はさらっと続ける。


「責任だけ重い」


「成果出なかったら叩かれる」


「成功しても当たり前扱い」


「だから誰もやりたがらなかった」


俺は天井を見上げた。


なんてものを押し付けられたんだ。


だが真壁は少し笑った。


「でも社長は本気だと思う」


「……」


「期待してるんだろうな」


その言葉が重かった。


期待。


前の会社ではほとんど言われなかった言葉だ。


俺は資料を開く。


そこには大量の課題が並んでいた。


物流部。


営業部。


カスタマーサポート。


システム部。


全部。


問題だらけだった。


むしろ問題しかない。


「これ無理じゃないですか?」


「無理だな」


真壁は即答した。


「ですよね」


「普通なら」


少しだけ笑う。


「普通じゃないから任されたんだろ」


そう言って去っていった。


一人になる。


静かな廊下。


俺は窓の外を見る。


夕方の街。


人が歩いている。


車が走っている。


いつもと同じ景色。


でも自分だけが違った。


一年前。


俺は年収三百万の会社員だった。


毎日ため息をついていた。


未来なんて見えなかった。


そんな俺が今。


会社を変える仕事を任されている。


信じられない。


その時、スマホが震えた。


神崎社長からメッセージだった。


短い一文。


> 現場の声を忘れるな。


それだけ。


でも十分だった。


俺は笑う。


そして資料を抱え直した。


逃げる理由はいくらでもある。


でも。


ここまで来たならやるしかない。


会社を変える。


現場を変える。


人が働きやすい場所を作る。


それができるかどうかは分からない。


だけど――


まずは一歩だ。


たった1株から始まった人生みたいに。


小さな一歩から。


その瞬間。


俺の新しい戦いが始まった。



:【次章予告】


「会社を食う古い体質」


現場改善プロジェクト始動。


しかし主人公の前に立ちはだかるのは、システムでも予算でもない。


会社に根付いた“変化を嫌う人たち”だった。


味方だと思っていた人の裏切り。


消される改善案。


そして現れる最大の敵――常務取締役。


「若造が会社を変えるだと?」


次章、会社全体を巻き込む本格社内戦争編へ。

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