武闘祭編 20話 武闘祭、開幕

「フレイヤ学園武闘祭、開幕です!」

「「「うおおおおおおー!!」」」


 大会運営委員のジェスナが、武闘祭開幕を宣言した。


 フレイヤ学園武闘祭。その発端は、騎士を目指す者達の腕試しである。

 実戦にはまだ早い、しかし血気盛んな若者の鬱憤を発散すると共に、その実力を測る為に始まったものだった。


 それが今やバルムンク王国の一大イベントとなり、多くの出店や大道芸人が集まるようになった。

 店を回ることから大会の観戦まで含め、それは一年に一度の国民最大の娯楽であった。


 ◇


 祭りの中。

 学園の生徒だけでなく、今日は街の人々も学園に入って大いに楽しんでいる。

 喧噪と食べ物の匂いが、学園の広場を満たしていた。


「イグナイト先輩、次はソーセージのお店に行きたいです」

「私はあなたと違って風紀委員の活動の為に来ているのだけど?」


 私はイグナイト。何故かギルと共に屋台巡りをしている。

 私がこうして出歩いているのは、風紀委員の活動としてだった。途中でギルと遭遇し、成り行きで二人で巡回することになっていた。


「武闘戦の予選がないので暇なんです。なので食べて蓄えようと思いまして」

「あなたスピードタイプなのだから体重は関係ないわよね?」


 ギルは武闘祭前、ランキング戦が終わる期限直前で、ランキングの8位に入ることができた。

 ランキングはポイント制。もちろん下位と戦ってもポイントはあまり得られないが、体力があって異常な連戦が可能なギルだからこそ、破竹の勢いでランキングを駆け上がれたと言える。


 ギルが敬礼した後、ソーセージを買いに行った。店をやっている生徒が驚いている様子が見える。

 事実、ギルの顔はかなり売れている。学園ではもう有名人だ。

 私と一緒である必要はないけれど、治安維持に少しは貢献してくれているだろう。


「ソーセージ買ってきました! どうぞ!」

「頼んでないわよ……はぁ、仕方がないからもらっておくわ」


 カプリと先端を齧る。こういったジャンクな味は久しぶりだ。嫌いではない。

 ……ただ、一つだけ不満があるとすれば。


「……エナと二人で……」


 そう、ギルにも聞こえない声量で呟いた。


「イグナイト様」

「……何か問題?」


 そこへ、イグナイトの部下である風紀委員が声をかけた。

 まさに軍隊のような背筋と敬礼が群集の中で目立つ。


「問題というほどではありませんが、妙な噂が」

「噂?」

「はい。何やら、幽霊や透明人間の噂が多数。また、目撃例のある場所にて転倒や小競り合いが発生しています」


 部下から詳細を聞いた。

 この人の数だ。転倒も小競り合いも多いのは当然のこと。

 しかし今年は、真昼だというのに幽霊や透明人間といった、不可解すぎる噂が流れていた。

 しかも、その噂の発生と諍いの位置が似通っている、とも。


「……私も調べてみるわ。ギル、私の分のソーセージも食べていいわよ」

「んぐ、分かりました。風紀委員の仕事、頑張ってください」

「ええ」


 火のないところに煙は立たない。何より、非論理的ではあるが直感で何かあると告げている。

 ならば風紀委員長として、調査すべきだろう。

 エナのことは気になるが、風紀委員長としての仕事へ向かった。


 ◇


「……できた……よね」

『あそこはもうちょっと攻められたと思うけど』

『いや、慎重になるべき。出力は足りてる』

「うるさい。設計図の時に散々やったでしょ」


 前のように完成させたものをそのまま運用するのではなく、ちゃんと実験場で性能を確かめてから調整を重ね、完成したものだ。

 これで間違いない。対抗戦はこれでいける。

 イグナイトのアーティファクトも調整が済んで、もう本人に渡してある。よし、これで。


『「武闘祭の準備、完了!」』

「本当ですか!」


【グレイプニル】を振り回すギルが扉の前に立っていた。勝手に入ってくるな。


 気付いたら全裸だったので、イグナイトに貰った服を着てギルと地上に出た。日差しが暑い。


「そう言えばイグナイトは?」

「風紀委員の仕事に向かわれました。何やら、幽霊か透明人間がいるとかで」

「あーそういうやつね。風紀委員長も大変だね」


 幽霊に透明人間……あいにく、私はそういうオカルトには興味がない。

 だってオカルトはオカルトだ。偶然が重なって、想像力が重なってそうなっているに過ぎない。


「だいたい、幽霊ならともかく透明人間とか。わけ分かんな」


 笑、とでも語尾につけた感じでギルに話していた。

 その瞬間、肩が誰かとぶつかった。


「おっと、ごめ……んえ?」

「どうかされましたか?」

「……私今何とぶつかったの……?」


 ギルが首を傾げる横で、手を振り回してぶつかったやつを探す。

 もしかして本当に透明人間がいるのか? 少なくとも透明だ。ぶつかった方向に何もいないのだから。


「透明人間ですか……分かりました。少し聞いてみます」


 私の少しばかり滑稽な行動を見て、ギルがイヤーマフを外した。

 ギルは本来の鋭い五感を使って、聞き耳を立てる。

 そうして見つけた、違和感のある風の音。


「そこです!」


 ギルが跳躍し、勢いよく蹴りをくり出した。

 それと同時に空間が割れた。

 とても見覚えのある風に。


 工房の扉の前に結晶の破片が散らばっている。

 完全にアレだ。暗黒の眷属を倒していた時に上空で漂っていた、謎のクラゲ。


「あれ……今回は破片の形状からしてクラゲじゃない……魚?」

「ヒレが多いのでサメではないでしょうか」

「サメかぁ。なんで魚介なんだろ」


 またしても謎が増えた。しかも真実を追及できないタイプの謎。最悪だ。

 だが悲報があれば朗報もある。


「ふっふっふ、燃料が増えた」

「燃料、ですか?」

「そ。ギルは先行ってていいよ。私これ保管するから」


 結晶は燃料だ。限られていた燃料が増えたのだから、その分正確な検証もできるし、実戦で使える分も増える。

 ただ、サメ型の結晶が私の工房の付近でウロウロしていたのは気がかりだ。

 工房には正直、知り合い以外近づいて欲しくない。


「とりあえず戸締りしておくしかないか……」


 少々嫌だが、諦めるしかない、か。


『それより燃料の検証しよう。改良の余地があるかもしれない』

「ん、そうしよう。素直にね」


 考えすぎもダメだ。

 私は技師。アーティファクトのことだけ考えていよう。




 ―――――

 後書き


 お読み頂きありがとうございました。

 あの謎の結晶が、しかもサメ型のが地上に現れました。謎は深まるばかりです。フカだけに。


 少しでも面白かったり、続きが気になったりしてくださると嬉しいです。

 是非作品フォローや⭐︎⭐︎⭐︎評価、お願いします。



 次回、『“黒渦”ギルvs“蒼絶”ジェスナ』

 武闘祭本番。トーナメント戦が始まります。

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