第4話 守る理由

黒い影が、一斉に走り出した。


速い。


人間なんて比べものにならない。


地面を這うように、ぐにゃりと身体を歪ませながらこっちへ向かってくる。


「なっ……!」


足が動かない。


怖い。


頭では逃げろって分かってるのに、身体が言うことを聞かなかった。


目の前に立った美月が、小さく息を吐く。


「……こんなに早いなんて」


その声は焦っていた。


一体目が飛びかかってくる。


瞬間。


バチッ――


空気が弾けた。


美月の周りに黒い光のようなものが広がる。


ドンッ!!


黒い影が吹き飛んだ。


壁に叩きつけられて、そのまま消える。


二体目。


三体目。


今度は左右から同時に来た。


美月は右手を前に出した。


「止まって」


その一言だけ。


ガキン――!


目の前で影たちの動きが止まった。


まるで時間が固まったみたいに。


「……え」


俺は言葉を失った。


なんだよ、それ。


魔法?


能力?


意味が分からない。


次の瞬間。


パリンッ――


止まっていた影たちは、ガラスみたいに砕け散った。


静かになった。


風の音だけが聞こえる。


……終わったのか?


そう思った時だった。


「……っ」


美月がふらついた。


「美月!」


慌てて支える。


身体が異常なくらい冷たい。


「おい、大丈夫か!?」


「……平気」


全然平気そうじゃない。


顔色が真っ白だった。


「無理すんなって!」


「……ごめん」


美月は小さく笑う。


でも次の瞬間。


俺の制服をぎゅっと掴んだ。


「……え?」


俯いたまま、美月が小さな声で言った。


「怖かった……」


その声は震えていた。


今までの落ち着いた美月じゃない。


昔、公園で転んで泣いてた頃の美月みたいだった。


「……なんで」


俺は思わず聞いていた。


「なんでそこまでして俺を守るんだ?」


美月は黙った。


数秒後。


小さく口を開く。


「……約束したから」


「約束?」


「うん」


「そんなのしたっけ」


すると美月は少し笑った。


でも今度の笑顔は、寂しそうだった。


「……悠は覚えてないんだね」


その時だった。


ゾクッ――


また寒気がした。


美月の顔色が一瞬で変わる。


ゆっくり空を見上げた。


「……嘘」


「どうした?」


俺も空を見る。


そこには――


黒い亀裂が走っていた。


空そのものが、割れていた。


**第5話へ続く**

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