第16話 異界3

 コツコツと橋を渡り、廊下へ辿り着く。


「バカ聖剣に続き、チャラ門番とは。俺いつからバトル漫画に転じたキャラになったんやら。」


「兄様が強いということを証明するには打ってつけの相手だったようね。」


「俺が強くても世界なんて救えないから弱くていい。つか、あんまりこういうどんちゃん騒ぎとは無縁と思ってたが。」


「地蔵お爺様が言ってらしてよ。

 『アイツはいずれ影宮を変える』と。だから私は影宮へ来たのはセレスさん次いでに当主へ襲名なさりに来たので?」


「なんでや。」


「家が無いのでは?」


「無いけどっ。そうじゃないっ。」


 いや確かに家無くなったからちんでしまう。が、逆に死んでもここには住みたくない。


「んないつ狙われるか生活なんて真っ平ごめんだよ。」


「そう、兄様は兄様だからいいけど。

 ただ私個人としても兄様が当主になってくれれば1番丸く収まるのに。」


 ストレスで精神が丸くなりそうだよ。


「ここよ。」


 1つの襖、その先にセレスたちが居るのを反応でキャッチする。一先ず命があって何よりだ。その上で5体満足っとととと!


 妹と名乗る存在が尊の背中を強引に押したのだ。


 扉を突き破る訳にもいかないので扉を何とかこじ開けて前のめりに入る形に。何とダサいことか。


「遅いわね。」


「ご、ごめんなさいタケル。」


「ほらね!ダーリンは強いんだから!」


「お前ら心配ぐらいしてくれ。」


 どいつもコイツも好き勝手や。家は燃やされ、戦うがままに導かれ、そしてかけられる言葉は辛辣なり。

 見よ、男子諸君よ。どれだけ異端児が無双したり頑張ろうとも異世界ハーレムのようにイチャラブ展開が当たり前にくる事なんてない。

 むしろ試練ばかり与え、己の人生や全てがちゅーちゅーと吸われていく。


 蛇白神社へお祓いに行こう。あそこのお蛇さん呪い魔法の特訓させてくれるし、それがいい。うんそうしよう。


「何ボッーとしてるんですか?」


「そもそも何で俺ここに来たんだか。」


「簡単よ、貴方が不在中に襲撃にあったからよ。」


「君ん家のバカ騎士が人の家の前で粗相したからだろ。」


「まあ、それもあるけど。どちらにせよ襲撃されている間は貴方手出し出来ないと思うけど、違ってる?」


 セレスのこの予知による正答率はぐうの根も出ないほどの正論…

 エドマン相手に余裕なんてある訳ない。


「家燃やされたのは…」


「証拠隠滅と移住先を絞るためね。」


「俺の家をなんだと思ってるんだ。」


「す、すみません!元はと言えば私たちが」


「いいのよ、イリス。王子様は私たちを守ってくれるから。」


「何という傲慢な姫様だ。」


「つか、何でダーリンがアンタらイギリスの連中らをひっくるめて守らないといけないっての。」


 斎賀さん!言ってやれ!


「貴女たち、日本の支部含めて力不足だからよ。」


 セレスさん、友達減るぞ。


「あっ?何?ただ視ることしかできないポンコツがなんか言った?」


 あちちち!ここで燃えるなよ!いや燃やしていい家だけど!


「貴様!お嬢様に……なん……て…なんでもないです。」


 ヴィンセント君、君はもう少し人を選ぶ癖を直しなさい。

 明らかに斎賀さんの鋭い眼光に弱くなってったよね?怖かったんよね?まあ分からんでもない。

 俺もあれの餌食になったし。


「姉さんも!斎賀さんも止めてください!」


「兄様、この頭の悪そうなメスを守るんですか?価値は無いと思いますが。」


 第三勢力作るな。


「あのな、先ず俺に説明責任を果たす奴いないの?」


 流石に俺でもここまで茶番されると呆れる。


「覚えときなさい、無能な予知者さん。」


「ええ、貴女のような役に立たない目立ちたがり屋を記憶に留められるか自身はないけどね。」


「もう!」


「はあ…兄様も変なのに憑かれましたね。」


 先ずお前も誰だよ…


「えーーと……じゃあ私が、タケルさん…」


 イリスが代表して俺が馬鹿と果し合いをしてる時のことをかくかくしかじか。


 ・居なくなった途端、爆弾を投げられ、斎賀清美の熱伝導の力、熱自体を下げる事で爆破は防いだ。

 ・そして直に侵入してきた敵をヴィンセントと斎賀清美でフルボッコ

 ・捕えようとしたら自爆

 ・更に自爆しようとしたから斎賀清美による高熱高温でとろけバター

 ・そしてガスが漏れて爆発

 ・火災を俺の部屋のみに絞るようにしたが、次々と来る刺客に一旦抜け出したと。

 ・目眩く角に追い込まれたところ、タイミングよく影宮家の使い長男が現れたと。

 ・一瞬にして敵を全員斬殺し、影宮家で保護


「んで本題が、自分たちに護衛をさせてほしいと。その代わりに英国と独自のルートと関係性を作りたいと。」


「ええ、そうなります。英国側へ渡れるようビザの発行手続きや裏組織としての活動領域をほしい。と言ったところが視えた感じです。」


「セレスの力の方で。って感じだな。んでイリス的には断って、何するか分からない未知な生物Xに物事を託すのがいいと言った訳だ。」


「未知なとは言ってないですが、概ね正解です。」


 いや普通は『やーい断られてやんの!』って嘲笑う所だったけど、現状俺一文なし宿無し状態で…あいや、銀行カードやらの必要なものは財布にあるけど…けど!8割は失ってる状態だ。

 500万もあるけど………いや家は買うけど、そんな早くに用意など到底出来ない。


「変な事で悩んでないで早くこの家から出る方法を考えて頂戴な物体Xさん。」


「このクソ偉そうな姫様は何かいい案でも?」


「無いわよ。詰んでるもの。私たちでは。」


 ハッキリといい物言いだね。逆にあざとくもないからこっちも困ったもんだよ。


「斎賀さんは大丈夫なの?斎賀家は?」


「斎賀家はどうでもいいよ。私、ダーリンの味方だし。あ、でもここで義父や義母に会うのかな?」


 1人頭がホンワカ中だな。


「イリス、俺は打開策を見つけられそうに無いが。」


 イリスは幸せな予知ができる。つまりイリスのルートが正解に等しい。


「それが、どうも影宮家は私たちを逃すことはよしとしないの。

 ただ、貴方の登場でこの状況を覆せそうな覆せなさそうな。」


 なるほど、その自信の無さは予知がし辛いか出来ない。だな。姉の方が不幸な分かなり正確だ。


「んで、妹よ、正直に言おう。名前を知らんのだが?」


「うん知ってる。兄様鈍いからさ。」


 舐めてんの?どいつもコイツもロストだからって俺を舐めてんの?

 もう兄様精神的ショックで鬱病になっちゃう。つか最近になって気付いたんだけど、普通女子との展開ってこう…胸がドキドキする展開とか甘い展開が多くないとじゃない?

 なんか美少女なんだろうけど、危険なという頭文字をつける展開が多い……


「ここで一度事項紹介しときます。」


 くるりとこちらを見返す自称妹さん。


「私は影宮月夜(かげみや つきよ)影宮家の末妹で影宮の『影』を使う直系にして影宮の次期当主候補の1人。」


「なっ。」


「影?」


「…そう、あの噂の影宮の…それに1番有力株と言われる影宮の真の後継者ね。」


 影というのは俺が先代と戦った際に色々引き伸ばしたり、沈んで隠れたりと闇における戦闘が優位に働く力のこと。

 簡単に言えば暗殺向きの力である。


 ウチの先代が代々引き継いだとされる力をまさか1番下の妹がまさかの。しかも女という。

 嫁ぐことは論外となり、次期当主候補とかいう下らない争いに目下奔走中ということだ。


「月夜?………え?大きくね?」


 いや思い出したわ。影のESPに覚醒しているのは知らんかったけど、あの小さい頃ってか、俺が丁度バカにされ続け、スパルタ教育を受けている6年前の話だな。


 そもそも16歳という高校生あたりの年齢に至るまでは、俺はそもそも碌な思い出もなければ家族と面会なんて早々ない。

 他の人間はロストと違い期待値の高い奴等ばかり。『影』であるかどうかは置いといて、そもそもESPと呼ばれている時点で将来は約束されているようなもの。


 そんな中で1人おかしな奴が庭にいた記憶がある。

 アレはあの時、地蔵爺さんが俺を竹刀でボコボコにされていた時の話だな。


『ぐへぇぁ!』


『たわけぇ!剣も使えんのかい!武器は使われるものではないぞぉ!使うものじゃ!』


『普通に使わねーし!外の世界そんな物騒じゃね!』


 いや今に思えば物騒な事ばかりだったわ。

 そして暫く休憩ということでそのまま庭の地面に転がされている時だった。


『もし、そこのお若い方、お怪我ですか?』


『アンタも若いよ。はあ…この家は広い上、誰が若くて年寄りかなんて知らんし。』


『んーーー……それもそうね。』


『えーとなんの話だっけ?』


『そうね、なんの話だったかしら。』


 それが初めての出会いだった。


『貴様っ!影を使う者として使命を果たせんというのか!』


『嫌!私家のこと家のことと毎回毎回うるさいの嫌!殺しなんてしたくない!』


『このぉ!生意気な!』


『何をしとんだー!』


 地蔵は当時の父親を叱る。


『ジジイ……俺を急に引っ張るとは良い度胸だ……ってなんでそんなに怪我してんだ?』


 月夜の身体は痣が浮かび、裂傷を起こしている箇所も。


『貴様っ!』


『何をっ!隠居の身で!』


『あっちがうるさいうちにちゃっちゃっと済ませるか。』


 月夜の身体を一瞬でヒーリングした。今に思えば、回復魔法の初行使であった。


『あ、温かい……ポカポカ。』


『粗茶なんて汲んでないぞ。』


『……アホなんですね、相変わらず。』


 辛辣な一言だな。


『でも、お優しいのね。』


『知らんよ。俺には』


 ポンっ!と手に取った花をクリスタル状の花弁型のヘアピンを生成する。


『こんな芸しか出来ないロストだからね。』


『…綺麗……透き通るよう…』


 よく見たら月夜の服装などは暗殺向けの物ばかり、乙女として碌なモノを与えられていないのは明白であった。


『ま、責めてもの慰めだ。この程度は受け取ってくれや。』


 俺はヘアピンを飾ってあげる。


『一応家族の枠組みには入るらしいからね。』


『……あ、ありがとう……』


 という出来事は大きな思い出であった。ただそれ以降は存ぜぬ。

 見知らぬ孤島に置いてけぼりな上、死に損ないサバイバル生活や魔力鍛錬のため、富士の樹海へ放り出されて熊や猪などと日夜格闘戦を繰り広げたりと。


 どちらかというと、影宮の件よりも爺さんの訓練という名のスパルタしかない。


「月夜……成長し過ぎじゃない?」


「あら?一端のレディですよ?

 それに、兄様が退化してるだけですよ。」


「大丈夫だ。これ以上後退することはないからさ。」


「それは一理あるわね。」


 そこ!なんでも言っていい訳じゃありませんよ!


「姉さんったらもう…照れ屋さんなんだから。」


 どこがっ!?


「兄様は人たらしの天才です。ただ残念なのが、まともなのが鉄花姉様以外いないという点です。」


「鉄花姉さんはまともというよりは、まとも寄りの異常者だよ。」


「だから兄様は私が管理します。」


「いや管理されても困るんだけど、影宮にはもう帰らんし。」


「そう…まあ、現当主ではそうなりますね。だから私が当主になって立派に跡を継げたら兄様は私のところへ戻ってもらいます。

 拒否権は無くなります。今日の件で。」


「なんな話が光の速さで進んでるだけど、俺拒否権は愚か、人権すら無くなってるよ。」


「という訳で、当主こと父様がごねると思います。兄様をダシにして。」


「はあ?ダーリン以上に最適な人いないし!」


「貴女の護衛じゃなくてよ?私の王子様なんだから当然、私の護衛しか相応しくない。」


「姉さんも守るなら私もお願いしますね、騎士様…」


「貴様は帰れ!」


 ヴィンセント以外無茶苦茶言ってるよ。段々鉄花姉さんが普通では?と思うようになってきたわ。


「守られる側の人に選ぶ権利なんてないことよ。」


 ゾワッ!とする影の奔流を感じる。

 メデューサのように月夜の背後からウニョウニョと生える。


「ESPランクSかしら?」


「さあ?測定なんてしてない。というか、私たち影の一族は基本的に物事を測ろうとはしないから。

 ただ殺せる力があるかないか。」


「面白いわねっ!私も滾ってきたところ。」


 ゴゴゴゴと何やら気温が上昇していく。清美さんオコです。

 感情の波長に流されやすいESPだことで。まあそれだけ身体中を駆け巡る細胞や脳に力が馴染んでいる証か。


「ちょっと、脳筋たちで勝手に争わないでもらっても?」


「姉さんの言う通りです。」


 この姉妹は姉妹で間接的に凄い力を持ってるからな。


「つか、そのパパ上居ねえけど。」


「今丁度この隣の館へ天皇陛下が来てるの。」


 ん?


「なんでそんなお偉いさんが、こんなうるせー連中の近くに。」


「その天皇陛下の顔を使ってセレスさんたちの依頼を取るつもりだから。」


「最強のカード切ってると。」


「クレジットのようにバンバン使うと思う。」


「貧乏人には分かりませんわ。」


「だから私が預かる。ということでどうです?」


 次期当主候補、そしてこの自信と提案、狙いがイマイチ読めない。

 ただ寝耳に水ではある。このままでは肉親に仕事取られて家亡き子になってしまう。


「その道しかなさそうだな。」


 チラッとセレスを見る。セレスもまた頷く。これはこの未来に問題ない。という回答にもなる。

 悪しきものは時として必要悪に変わる。


「んで、条件は?」


「条件は兄様が、私の婚約者になること。」


「どう逆立ちしても無理なんだけど?」


「今はね。私も、兄様も。」


 今も先も実の兄妹と婚約者ってファンタジー世界じゃあるまいし。


「先に言っておくけど、兄様は義兄様と読むのよ。」


「言葉だけに違いが分からん。」


「要するに義兄様は押し付けられた子ってこと。だからロストになる。

 何故なら消息不明の母親もまた無能力者のロストだから。ただ父様が母様に夜のお店に通って居たことを隠すためのブラフ。」


 なんていうしょうもない理由で乏められていたんだ。

 つか、はい?なんか衝撃の新事実を教えられたような…はい?え?あ、ちょ。マジ?


 尊はハンマーで頭を叩かれたかのような一撃を脳に受ける。

 その衝撃は心や過去の記憶にまで至る。


「…………」


「言葉も出ないようね。」


「セレス、この展開は」


「貴方のことは依然読めないわ。でも、何か貴方に纏わる話がここで行われるかもしれない可能性は大いにあった。

 鉄花が貴方を妙に気に掛けていたのも、事実を知っていたからよね。」


「……いやまあ、そうなるな……」


 姉さんは知っていた。だからこそ同じはぐれ者として…いやそれよりもだ。

 何故その事実があるというのに、俺は魔法が使えた?それも意味が分からない。なんだこの奇妙な関係と真実は?


「ダーリン…」


「いや大丈夫だ。むしろ納得した。何故俺がESPを授けられなかったのか。

 あまり良くない目で見られていたのか?がね。だがそれよりも他の疑問点が生まれた。何かがズレている。」


 月夜は知っていた。ただ知っていたとしても何故今明かした?明かす理由は本当に結婚したいから?

 いやそれは副産物で本質の回答じゃない。


「今当主争いは佳境に来ている。」


「!」


 月夜は外を眺める。風景に映る美しい自然と和風な造りの建物の数々…


「流石兄様です。やはり兄様ほど聡明で美しい方はいません。

 はい、影宮は裁定の儀として当主簒奪戦を開始される予定です。簡単に言うと、候補の兄弟で殺し合い、全員殺した者が次期当主となる。」


 クソが。反吐が出る内容だわ。

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