どうやら隣の女子は歴女らしい

音瀬れさ

第1話 「初・社会での自己紹介」

「じゃあ授業はじめまーす」


中学2年生、松下千翔まつしたかずと

個性もステータスも何もない、ただのモブキャラ。

この春から俺は、霜山しもやま中学の2年1組になった。

そして、今日はこのクラスでの初めての社会の授業。



「起立、気をつけ、お願いします」


クラス委員の男子が、キリッとした声でそう言う。

それに続いて、俺たちも「お願いします」と言う。


こういうのは、第一印象が大事って、誰か言ってた気がする。



「今日ははじめての社会の授業ですね。まずは自己紹介からいきましょうか。好きな歴史人物とか言いましょうか、社会ですし」


今年の社会の先生は、おっとりしていて知的な印象の先生だった。


「じゃあ、まずは左端の人から──」

先生が言いかけると、左端のある陽キャ男子から声があがる。



「えー、最初は先生がやってよー」

「私から?しょうがないか、私からね。じゃあその次は左端の君から──」


教室から、「ククク」と抑えた笑いが起こった。

俺は苦笑いをしていた。


「えっと、私は志丸しまるまやです。えーっと、1年間よろしくお願いします!織田信長が好きかなあ」


志丸先生はそう言って、ニコッと生徒達に微笑みかけた。

愛嬌のある、美人というよりかわいい顔立ちだった。




そのあと、某陽キャが自己紹介をした。

そして、次の次は俺という場所まで来たときのことだった──



俺は一番後ろの席、隣はとある女子だ。


「わっ、私は、空城彩花くうじょうあやか。──戦国時代が好き、特に徳川四天王とくがわしてんのうとか豊臣秀吉の逸話とか…。本田忠勝ほんだただかつさんが一番好きです。本当にかっこよくてね、もう、『本田忠勝様!!』みたいな感じ!!」



「え?」

無意識に声が出ていた。

空城、彩花。

名前は知っていたが、話したことはなかった。


他の授業では、こんなに流暢に話していなかったのに。

数学でも、英語でも、理科でも、国語でも空城の自己紹介は「空城彩花です、よろしく」の至ってシンプルなものだった。

なのになぜ、社会だけこんなに熱量が高い自己紹介をした?


その瞬間、「もしかして─」と俺の脳内に浮かぶ考え。

空城は、俗に言う「歴女」なのか?

歴史が、大好きなのか?



そこまで思考し終わると、俺はふと周りを見る。

まだ、生徒達は余韻に浸っているように感じ取れた。ざわざわと声を殺して話している。



そんな空城、または今の状況に呆気に取られていた志丸先生だが、ハッとキョロキョロと周りを見る。

「あ──彩花さん、ありがとうございました。じゃあ次の人お願いします」


志丸先生は俺と目を合わせる。


俺は、今の状況で自己紹介なんてしたくない。

普通のことしか言えないからだ。

空城みたいなことが言えない。それに、陽キャ達が「あいつも─」などと、俺に対する無茶振りのようなことをひそひそと話している。


俺は、もうしょうがない、と首を横にふる。

意を決して、「松下千翔です、えっと……」


まずい、誰も思い浮かばない。

ここは卑弥呼か……?

聖徳太子か……?

平清盛か……?


「好きな歴史人物は坂本龍馬……です」




パッと、急に頭に降りてきた人物だった。

これなら、空城の話とも関係していないし、いいだろう。

こうして、俺の平穏な学園生活は保たれたのだった──。


完全にフラグになりそうなことを思いながら、シャー芯を筆箱の中から出す。



そう安心したのも束の間だった──。


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